本人(オリジナル)だけが肉体に縛られる。
 つまりはそういうことなのだ。
 そうなると、エントーシアンは本体の意識を殺すことはできないのではないか? という疑問が浮かぶ。だから、素直に信じることができないのだ。
 感覚を奪い取っても、肝心なときに元の意識が目覚めてしまう。死んでも死んでも…… エントーシアンはそんな無駄な戦いを挑んでいるのか。いやそうは思えない。
 それでも、真琴はこのアイディアに乗るしかなかった。今、他に選択肢はないのだ。
「肉体を刺激して、本人(オリジナル)の意識を呼び戻す」
 ヒカリはうなずいた。
「それしか残っていない」
 真琴は考え始めて、次の問題に気づいた。
「どうやって体を動かすの?」
 夢の中で体を動かそうとすると、自分の映像が動くだけだった。つまり、本当の肉体を動かすことは出来ない。
 ヒカリが言った。
「じゃあ、寝返りはどうやってるの?」
「えっ……」
 真琴は田畑に蹴られた腹部を抱え込むような体勢をとりながら、どうやって寝返りをうっているのか考えた。
 確かに都度覚醒している訳ではない。
 なんらか体を動かす方法があるのだ。
 それとも意識外で体が反応しているのだろうか、だとしたら制御出来ない動きだ。
「俺も参戦するぜ」
 田畑と一緒に踊っていた、白シャツの男が突然言った。
「俺は田畑の味方だから」
 つかつかと近づいてくると、真琴の顔を蹴り上げようと、ステップを踏んで右足をそらせた。
 一瞬前にその動きに気づいて、真琴は何とか直撃を避けたが、今度は手で頭を抑えられてしまった。
「今度は避けれねぇだろ」
 勢いよく膝が上がってくる。
 マズい、マズい、マズい!
 真琴は田畑の足を離し、間一髪、顔面と膝の間に腕を挟み込んだ。
「ちっ!」
 膝が上がっている隙に、真琴はそのまま頭から押し込んで白シャツを転ばせた。
「そのまま俺の上に来なよ」 
 白シャツはそう言った。
 真琴は言われるままにのしかかると、顔面に拳をぶち込んだ。
 すると表情も変えないまま、白シャツは泡のように消えてなくなってしまった。
 真琴は田畑の足が飛びててくる前に本体に近づこうと、走り始めた。
 地面を破って蹴り上げてくる田畑の足を右に左にかわしながら近寄ると、真琴は田畑の背中に向かって飛んだ。
「ヒカリ、田畑の腕をとって」
 ヒカリは掴まれていた足を引き上げて、田畑の腕を握った。腕を取られていれば、振り返って反撃できないはず。背後とったボクが有利だ。
 伸びてきた足が真琴を蹴り飛ばそうとするが、一瞬早く田畑の背中に飛びつけた。
 真琴は馬乗りの状態から、拳を振り下ろした。
 低い打撃音が響いた。
 伸びてくる足が、真琴の体をかすめる。が、その蹴りにさっきまでの力強さはなかった。
 とにかく分離するのは後回しで、弱らせないといけない。真琴はさっきのヒカリの言葉を思い出していた。



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