体育館には笹崎先生がいて、部長と同じような説明をした。川西先生の処分理由はわからないこと、今日から別の高校へ異動になっていて、もう土屋高校の先生でも、バスケ部の顧問でもないこと。
 噂話を両親に言わないこと。異動になったのは事実なのでそれは話してもいい、けれど部活であったことなどを付け加えて話すことはしないこと。
 すべては部長の言ったことの言い直しだった。
 なぜなのかは全く闇の中。
 あかねは、ふと、例のWiFiのことを思い出した。
 部活中も確かめたくてしかたなかった。川西がいなければ、例の変なWiFiがなくなるのか。逆に、川西がいる間はあるのか。
 部活をめちゃくちゃにした川西が突然いなくなることで、女バスの問題は一気に解決するはずだった。
 川西の側につくとか、反対側とか、そういう問題はなくなるはずだ。
 あかねはそれが解決しても、神林や町田、山川らのとの溝は解決しないだろう、と思っていた。川西がどこかで関係していたとしても、そうでなかったとしても。
 あかねにとっては、全部が川西のせい、と思っているが、多分それでは済まないだろう。川西がいなくなったから仲良くしよう、というのはなにかこちら側の都合だけを押し付けているようだった。
 練習の間、神林や町田、山川の顔をちらちらと見ていたが、やはり練習中は普通だった。どのみちもうこの娘(こ)らと関わることはないだろう、とあかねは思っていた。結果、こうなるなら尾行などしなかったのに、わざわざ嫌われることはしなかったのに。
 あかねは、ふと、香坂の視線に気づいた。
 どうやら、あかねのことを見ているようだった。そう思って香坂をみると、香坂は目線をそらした。なんだろう。理科準備室のことが気にかかっていた。練習中に近づいて、何か話すチャンスがないかと思っていたが、なかなか近づくこともできず話しを聞けなかった。
 集合がかかった後、練習が終わった。
 香坂はダッシュで体育館を出ていき、部員がみんなビックリしていた。
「美々ってなんかあったの?」
「なんか用事があるからって言ってました」
 あかねはそんなやり取りを聞いて、そうなのか、と思った。別に理科準備室のことと、急いで帰ることはつながりはないのだ。
 あかねは、持ってきていたバッグからスマフォを取り出し、体育館隅に行ってしゃがみ込み、WiFiチェックした。
「あった」
 例の『BITCH』だった。まだ存在する。
 川西はまだ謹慎になっただけで、学校に置いてある私物はそのままのはずだ。この後、川西先生が荷物を引き上げた後に無くなっていれば、このWiFiは川西が仕掛けたものだった、ということになる。
「何があったの?」
 笹崎先生が立っていた。 
 一瞬、話そうか、ということが頭をよぎった。
「前から欲しかったシューズです。ネットで探してたんですよ。今、在庫がありに変わってました!」
「別にこんなところで探さなくても」
「電波の入りがいいんですよ」
「こんな隅っこが?」
「それじゃ、先生、もっといい場所あります?」
「……確かに調べたことないけど、隅は鉄筋が集中するから、あまり電場状況がいいとは思えないわね」
 笹崎先生はそう言ってから、他に残っている部員を追い出すように回っていった。
 あかねは支度を終えると体育館で、笹崎先生を待った。
「先生」
 笹崎先生は消灯したのを確認してから、体育館に鍵をかけるところだった。
「何かしら」
「川西先生って片付けに来ますよね?」
「おそらくね」
「いつくるとか聞いてます?」
「最初に話した通り、まだ何もわからないのよ」
 鍵をしおえて振り返ると、先生は言った。
「退任の挨拶をするかもしれないわね。その時に一緒に持ち帰るんじゃない?」
「そうですか。ありがとうございます」
「なんでそんなこと聞くの?」
「最後、川西先生に挨拶したいんです」
 あかねは嘘をついた。
「そう……」
 先生はポンと肩を叩いてから言った。
「さようなら。気をつけて帰ってね」
 あかねも挨拶をして部室へ駆け戻った。



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