そうして何事もなく数日が過ぎた。
 川西がいなければ、仲間がいがみ合うこともなかった。塾の帰りバクバクバーガーで美佐と話したり、早弁をしたりする平凡な日常だった。
 部活に顔を出す顧問が笹崎先生に代わったが、川西の話が終わってしまえば、あかねと先生の接点はないも同然だった。先生が直接ボールを使って指導することもなく、部活内の萌え要素は香坂の姿を見るぐらいだった。ただ、例の理科室から飛び出してきた時以来、あかねと香坂の間に挨拶以外の会話はなかった。
 あかねは、また退屈な学校生活が始まる、と思って登校してくると、構内放送があった。
 どうやら全校集会をするから体育館に集まれということだった。
「川西先生のあれかな?」
「……そうかもね」
 あかね達には、全校集会をする理由が他に想像つかなかった。
 副校長が壇上に上がると、ざわつく体育館が急に静かになった。
「本日は、先生の異動について発表があります」
 川西の異動のことだ、とあかねは思った。
「みなさんもご存知かとおもいますが、保健体育の川西祐介先生が、急遽、一身上の都合により、上黒郷高校へ異動なされました。なお後任の先生は探しておりますが、まだ決まっておりません。しばらくは体育の時間割を変更して、いまいる先生方でやりくりしますので、しばらくの間は時間割に注意してください」
 一身上の都合、という言い方をすると、まるで川西が望んで異動したように聞こえる。果たして川西がこんなに慌てて異動する意味があるのだろうか、とあかねは考えた。
 場所が悪いとしても、上黒郷は県の北側とはいえ、そもそも川西の自宅は東西に伸びる路線の沿線沿いだ。上黒郷に通うほうが無理がある。
「上黒郷高校って、確か男子校だよね」
「知らねぇけどワルの多い学校だろ、あそこって」
 小声で話しあっている。
 あかねは上黒郷高校がどんな学校かは知らなかったが、周りで話している通りだとすると、わざわざ異動を希望するような学校ではないようだった。副校長の説明は何か隠しているように思えた。
「急である関係で川西先生の挨拶はありませんが、今日荷物をとりに来られることになっております。もし時間が合ってお会いしたのであれば、恩師に感謝とお別れの挨拶をしてください」
 恩師? 感謝の言葉? あかねは思った。
 出ていってくれてありがとう、とか言っていいってことだろうか。
「副校長先生のお話を終わります。気をつけ、礼」
 皆が頭を下げた。
 ここまで話しで、あかねはふと川西が何かの処分を受けたのではなく、単に急な異動、それも一身上の都合による、として片付いていることに疑問を持った。
 当初、何かの理由で処分された、という話だった。
 だから笹崎先生からのセクハラ問題のリークを疑ったわけだし、みんなが女バスのセクハラ事件がおおやけにならないか、と心配していたのだ。
 今、副校長の話から聞こえてくるのは、単なる異動、それだけ。
 本当にこんな簡単なことだったのだろうか。
 あかねは腑に落ちないことだらけだった。
「次に生活指導の鈴木先生からお話があります」
 壇のしたに鈴木先生がマイクを持って現れた。
「すぐ済ませるから静かに聞いて。学校にスマフォを持ち込んだりスマフォの使用は許可されてはいます、ただ、最近使い方で、不注意が多いようです。むやみに知らないWiFiスポットに接続しないように気をつけてください。パスワードのかかってないところは、無料かもしれませんが、内容を盗み見ようとしている罠かもしれません。よく分からないWiFiスポットに気軽に接続しないように。何件か被害も報告されているようです。細かい内容は県の教育委員のホームページにPDFで載せていますので、よく目を通しておくように」
 鈴木先生が、進行役の先生に何か合図した。
「終わります。気をつけ、礼」
 皆が礼をした。


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