いつのまにか、真琴は『とうがたった』魔法少女になっていた。
「ふん。そんなへんてこりんな格好に変身して、なんとか助かったみたいだけど……」
「助かっただけじゃないわ」
 真琴はバイク・ヒーローではなく、確信をもって魔法少女を選択していた。
「ボクが勝つ方を選んだんだよ」
 バトンで下手くそなロケットを描くと言った。
「聖なるバトンよ、ロケットで敵をつらぬけ!」
 描いたロケットが、立体化して飛んでいった。真琴は続けて同じような形の絵を書き続けた。
「ロケット! 敵をつらぬけ!」
 今度は一斉によっつのロケットが実体化して、同じ方向へ飛んでいった。
「どうだ!」
 もといたダンスフロアはもうはるか先に見えている小さな光だった。
 ロケットの消えた方向をじっと見ていると、そこから何か白くて丸い物体が浮遊してきた。
 エントーシアンの田畑であることは間違いなかった。ただ、遠すぎてそれがまだ白く丸いようにしか見えなかった。宇宙空間を使って攻撃してくる敵に、あえてバイクヒーローを選択しなかったのは、宇宙空間での戦闘のリアリティだった。
「なぜ…… なぜだ……」
 次第に近づいてきたエントーシアンの田畑まさみが、嘆くようにそう言った。
「さっき、ボクの勝ちだと言ったろう」
「なぜだ……」
「『超常激烈宇宙 魔法少女カラツキ』を見たことないの?」
「?」
 真琴は敵エントーシアンの母体が同世代であることを利用したのだ。
 魔法少女カラツキのオープニングシーン。
 さんざん替え歌を歌ったものだった。それくらい当時は流行ったものだった。だから田畑の体にもその固定観念が染み付いているはずだった。
「そうね。あなたの記憶にはないかもしれないけれど、あそこにいる本物の田畑さんはカラツキの放ったロケットがぶつかる先にいる、サッキーを知っているはずよ」
「サッキー?」
「まさに今のあなた自身よ」
 田畑は曲がらない首を必死に動かして、自分の手足を確認しようとしていた。真琴はバトンを大きく回して言った。
「鏡よ鏡! 姿を映し出せ!」
 真琴の描いた円が鏡となってエントーシアン田畑の手元へと流れついた。魔法のちからで体温は保たれ、息はできているが、ここは宇宙空間だった。
 田畑は鏡を手に取ると曲がりにくい手足を工夫しながら、自分の顔の前に鏡を動かした。
「な、なんなの?」
「それがサッキーよ」
「キリンのぬいぐるみじゃないのか」
「そうとも言う」
 そう言って真琴はうなずいた。
「この空間を飲み込む悪魔になったはずだ」
 田畑は曲がらない首を必死に振った。
「サッキーはカワイイけど悪魔なのよ」
「……」
 いや、それは本当だ。
 子供の頃はあのサッキーはキリンモチーフだとばかり思っていたが、大人になってネットや書物をあたると、少女をそそのかす悪魔をイメージしたキャラクターだと知った。まさかその知識がここで役立つとは。
「認めない! なぜこの世界でお前のいいなりなのだ!」
「おとなしく負けを認めろ。いくら頑張ってもサッキーはカラツキには勝てないのよ」
 真琴の中の弱気な心が、ちらっとイケないことを考えてしまった。
「!」
 田畑はサッキーの口を開いて笑い始めた。
「ふふふ…… わかったぞ!」



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