例えば、ボクと薫の出会いはなんだ、と言われても、同じように答えられない。愛し合うべくして、出会い、そして愛し合った、としか言えない。じゃあ、田畑さんとヒカリは? 初めから別れることが決まっていた? それは単にボクの意思のせいなのに?
「そうよ。あなたにヒカリを消し去る権利があるのかしら」
「え?」
 まるでこちらの考えを読まれているようだ、と真琴は思った。
「ボクの考えがわかるの?」
 田畑は何をいっているのか分からない様子だった。
「そんなことは分からないわ」
「じゃあなぜ」
「だってあなたはヒカリに助けられたりしてきたんでしょう? 一方的に利用するだけ利用し続けたんでしょう?」
「なんでそんなことがわかるんだ! ボクはヒカリのせいでいつも頭痛になって……」
「私もそうだったわ」
「そうだよ、ボクがあいつを倒さなかったら、田畑さん、君はどうなったのか考えたことがあるのか?」
「そうね。私の中のエントーシアンはひどいものだった…… 暴力的で支配的だった」
 田畑はうつむいた。
 しばらく黙っていたが、顔を上げて真琴の方をじっとみた。
「けれどヒカリは違う。そしてあなたとヒカリの関係は、私達とは全く違う」
「もうやめて」
 真琴は目を閉じて、両手で抑えるようなしぐさをした。
「もういい、もういいから。もう黙って。考える時間が必要なの。だからもう夢は終わり」
 田畑の姿も、さっきのヒカリのように色や形が薄くなって消え始めた。何か口を動かしているが、もう声も聞こえない。
 誰もいない世界でしばらく一人たっていたが、真琴の姿も色、形がおぼろげになり、消えていった。
 そして肉体に意識が戻った。
 真琴は暑苦しい感じがした。
 何かを抱きかかえていて、腕を回した先で手首が強く締め付けられいる。
 目を開き見えてきたのは、目の前の壁と左肩にある田畑の頭だった。そうだ。真琴は思った。
 体を押し付けて、薬をのまそうとしてキスしてきた田畑を抱いたまま、夢のなかでエントーシアンとの戦いになったのだ。ここに来る前、ヒカリに体の感覚を奪われていた。手首を締め付けているのが田畑のパンティだと気づき、慌てて手を抜いた。そして、田畑のずり上がっているスカートを引っ張り下げて整えた。
「田畑さん、起きて」
 小さい声だったが、耳元で言うには大きかったかもしれない、と真琴は思った。
 田畑の体はその声に少しだけ反応があった。
「起きて」
 今度は言葉で言うとともに体を揺すった。
 柔らかい田畑の体が揺れるのを感じた。
 田畑の顔を見ていると、真琴は違和感のある思い出が蘇ってくるのを感じた。絶対にしたことがないのに、はっきりと想像ができる過去。この目の前の娘と、体を合わせ、唇を、指を、足を、相手を思いながら動かし、互いに感じ合う。そう、これは、ヒカリが刻んだ思い出なのだ。
 真琴は見知らぬ記憶を思い出すという、初めての経験に体が震えた。
 まるで自分がそうであったかのように、田畑の寝顔を見て愛おしく感じている。これを自分のものと誤解してはいけない、と真琴は強く意識した。ただ、それを強く意識すればするほど、二人の気持ちを踏みにじったさっきの自らの言動を後悔した。




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