とにかく、本当かどうか確かめる必要はあるものの、本当だったら体育祭を休んだら避難されてしまう。あんなに走れるのに、いつもは運動が出来ないフリをしているのだ、とか。
 もう真琴の状態で体育を受けれないかもしれない。
 真琴は帰りのバスに揺られながらぼんやりとそう思った。
 それにしても、やたら眠い。
 さっき保健室で十分寝た気がするのに、ちょっと座ってバスに揺られると眠気が襲ってくる。真琴は降りるバス停に気づかず、ギリギリでベルを鳴らした。
 なんとかバスを降りると、家に入り、部屋着に着替えて居間のソファーに腰掛けると、そのまますっと横になってしまった。
 あれっと思っているうちに意識が遠くなり、そのまま真琴は寝てしまった。
「真琴、ご飯だからそろそろ起きて」
「……」
 体がダルくて目だけを開けると、母がソファーの背もたれ側から覗き込むようにしているのが見えた。
「あ、ごめん、寝てた。ボクの当番だっけ?」
「違うよ。少し帰るの遅くなるからって、連絡したんだけど、見てなかったみたいね」
「ごめん」
「いいのよ。さ、ご飯にしましょ」
 真琴は起き上がろうとした時、お腹に引きつったような痛みを感じた。
「痛っ!」
「どうしたの?」
 上体が起こせない。
 きっとヒカリが真琴の体を使った代償だ。
 ソファーを掴んで、腕で体を起こそうとしたが、その腕にも痛みがあり、しかも、まるで力が入らない。
 体を転がすように回転させて、そっとソファーから立ち上がった。
「ね、どうしたの? なんかヘロヘロな感じね」
「体育祭の練習で……」
 ヒカリのことを話しそうになってやめた。
 ヒカリが誰だか、母には話していない。
「そう。けど、急に強い運動をしないで、少しずつならしていかないとそうやって体を壊すわよ」
「いや…… そんなに頑張るつもりはなかったんだけど……」
 普段通りの歩幅を取ろうとすると、ももが痙れたようになってしまう。真琴は老人のような小さな歩幅でゆっくりとあるいて食卓についた。
「ほんと大丈夫なの?」
「うん。大丈夫」
 真琴は笑顔を作ってアピールしてみせた。
 食事をなんとかこなし、食器を片付けようと立ち上がった時に、背中に激痛が走った。
 運動というのはこんなにもあちこちの筋肉を使うものなのだろうか。真琴は自らが陥っていた、運動が苦手、運動をしなくなる、筋力が落ちる、結果運動で失敗する、運動が苦手、運動をしなくなる…… という負のループが、相当なレベルまで進行していたことに気付かされた。
「いてて……」
 真琴は声に出して、腰をさすった。
 それでもなんとか食器を片付けると、そのまま自分の部屋に戻って睡眠をとることにした。
 学校の保健室で寝て、バスでウトウトし、帰ってきたらソファーで寝てしまったのに、まだ部屋に戻って横になるとは、どれだけ疲れているのか、と真琴は考えた。
 目を閉じると、その暗闇からヒカリが現れた。



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