学校へ行く支度をすると、真琴はすこしぼんやりしながら、体の中にヒカリがあがってくるのを待った。ヒカリが体に緊張感を与えると、二人で話しあった。そして、いつもはバスで行く距離を、走っていくことに決めた。
ヒカリが動かす真琴の体は、覚えているマラソンやジョギングの感覚とはまるで違うものだった。同じ筋肉の体を使っているとは思えないような、軽い感覚で手足が動く。
呼吸が乱れて来たので、ヒカリが休むことを提案してきた。もう少しで駅についてしまう。ここからは歩いても間に合うだろう。
真琴は、スマフォを取り出し『リンク』を開いた。そういえば、と真琴は思った。エントーシアンから助けたのに『リンク』に名前が加わらなかったのは、田畑さんが初めてだ。今度あったら、『リンク』のIDを聞いてみよう。
そこまで考えて、これはボクの考えなのか、と真琴は思った。ヒカリがそう思ったとか、そう語りかけてきた、とかそんなことだったりしないのだろうか。
スマフォに気を取られたせいで、目の前のブロックに足を引っ掛けてしまった。
倒れそうになる体を、ヒカリが手足のコントロールを奪って立て直してしまった。
『危ないわね』
『田畑さんのリンクの事を考えたのは、あなたのさしがね?』
『真琴の思考に割り込んだり、影響させたりしたことはないわ。誓ってもいい。それよりお礼の言葉はないの?』
何に誓うのだ、と真琴は思った。
ボクには信仰の類がないのに……
『お礼はするよ…… あ、ありがとう』
真琴は軽い頭痛を感じた。この頭痛とヒカリが現れることが、真琴にとって、切っても切れない関係になっていた。
『ありがとう』
『そこに薫が見えるから。それじゃ』
急に体のすべてのコントロールを渡されて転びそうになった。
「おはよう、真琴」
「おはよう」
すこし足の踏み出しかたが弱かったせいか、薫に寄りかかるようになってしまった。
薫は両手で抱きとめた。
「ど、どうしたの」
「なんか、筋肉痛が……」
「あ、昨日のアレのせいよね」
真琴と薫を見るために来ていた女子学生が一斉にどよめいた。
「アレだそうよ」
「私はアレをみましたわ」
「え? なんなの、アレって」
そんな会話が聞こえてきた。
真琴は薫の肩に手を置き、バランスを取りながら背筋を伸ばして、距離と取った。
「体育祭の練習もそうなんだけどさ。今日も駅まで走ってきたからね」
「え、昨日に続いて、そんなことになっていたの? 真琴が急にそんなに運動をしたら……まあ、そうなるわね」
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