真琴は足を力いっぱい伸ばした。
 男子の股間に向かって。
「ぅぅ゛ええ……」
 結果として股間を蹴り上げられたその男子(こ)は、吐くようにそう言って、丸くうずくまった。
 真琴は、両足を上げて反動をつけると、ブリッジをするかのようにしてから立ち上がった。
 こんな動きをするのは、明らかに真琴ではない。
 ヒカリだ。
「ごぉお!」
 踏みつけようとした生徒が、拳を振り回して、真琴に襲いかかった。
 頭痛は続いていた。
 体をのけぞらせて寸前で避け、突進をさばきながら足をかけた。
 突っかかってきたエネルギーが、今度は自分を床に倒すための力に変わり、その勢いのまま床に転がってしまった。
 真琴は、自分が引っ掛けて倒した生徒が、受け身も出来ずに顔面を床で打つのを見て、思わず声を上げ、顔をそむけた。
「ひっ……」
 複数の足音がしたかと思うと、男の人の声が聞こえた。
「おい、何があった!」
 警備員が倒れている扉を避けて中に入ってきた。
「えっと……」
 真琴は生徒達に迷惑をかけないような理由を必死に考えた。
「急に扉が倒れて、そしたら」
「こら、何をする」
 保健室の外から声が聞こえた。
 警備員はそれに反応してすぐに廊下に出た。
「先生。どうなさいましたか」
「この二人が……」
「なんてことするんだ。やめなさい」
「あ゛あ゛、ゔぁ」
「痛い、やめろ、うあ、あ、早く、早く逃げなさい」
 先生や警備員さんにもお構いなしに暴力をふるうとは……
 本人の潜在意識とマッチングしたのか、それとも相当コントロールが強いのか。
 真琴は廊下に出る決意をした。
 手を軽く握って顔の前に上げ、脇をしめた。
 ヒカリが言った。
『でるよ、いいわね?』
『これ以外の選択肢ないんでしょ?』
 ヒカリは笑った。
 真琴は走り出すと、扉の近くにいた三人目に飛び蹴りした。
 全く考えもしていなかったように、不自然な格好で床に打ち付けられた。
 ヒカリが言った。
『あと一人』
 廊下で倒れている先生が、腹部を抑えながら言う。
「逃げなさい、この生徒達は何か、おかしい……」
「ゔぁ……」
 例の本人の声ではない、何か異質な声がした。
 その生徒は、さっきまでの三人とは少し体つきが違っていた。何かやっている、ヒカリはとっさにそう感じた。それは、真琴にもダイレクトに伝わってくる。
「ふぅ…… ふぅ……」
 男子生徒は、声を出しながら息を吐いている。
 拳法かなにかだろうか、腰を落とした姿勢からの視線は、単に操られている異常さ以外に、狂気と殺気を強く感じた。
 間合いが詰まっていく。
 真琴は軽く左拳で牽制した。
「ふっ」
 そこまでの呼吸の流れで、軽く避けられた。
 ヒカリが安堵したように言う。
『あっ…… 足を狙われなくて助かった』




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