真琴は暗闇の中で耳を抑えてしゃがんでいた。
 話しかけるヒカリの姿はみえていない。
『真琴、ここはお家だから遊んでいいんだよ』
『本当?』
『だってお家でしょ』
 真琴は目を開いた。
 そこには擦り切れたクッションのカバーがうっすらと見えた。
『ボクは一人だよ』
『ボクも一人』
 話しかけるヒカリは、クッションではない、どこか違うところに見えているのだった。
 真琴は言った。
『ヒカリちゃん、お家っていうけど、本当はどこなの?』
『真琴の夢の中』
『ボクの?』
 真琴はクッションから顔を上げた。
 頭痛は収まらなかった。
「いないじゃない」
『聞こえるでしょ?』
 真琴は幼稚園のころに選んだ縫いぐるみのクマが描かれた、クッションを見下ろした。
「聞こえる」
『目を閉じて』
『いた! ヒカリちゃん。ボク、起きているのに不思議だね!』

 真琴は目が覚めた。
 部屋はいつの間にか真っ暗になっていた。
 スマフォのLEDだけが、何かを知らせるように光ったり消えたりしていた。
 真琴はスマフォを確認しようと手を伸ばしたが、躊躇した。
 夢……
 確か低学年の頃だった。
 夜にみる夢以外で、ヒカリに合うことが出来るようなったのだ。確か、ヒカリは、やっと言葉が話せるようになった、と言っていた。
 生まれたての子供のように、声がでるだけの状態から、言葉を覚えたのだ、と言っていた。記憶はボクの体に残るから、それの見方を学ぶのに時間がかかったと。
「そうか」
 真琴は暗い部屋の中で声をだした。
 真琴の側から、ヒカリの記憶を見ようとしても、同じように言葉がわからないと何がかかれているのか分からないのだ、と真琴は思った。
 記憶は必ず体の中にある。
 ただ、記録者がヒカリなのか真琴なのかで、その場所と記載方法が違うだけだ。
 きっと、ボクにとって意味のないようなものとひも付けられているに違いない。そしてボクとは違った言葉の感覚で記録されているはずだ。ボクはヒカリの言葉を学ばねばならない。
 ただ、そんなことが明日にでもできるのか、ということだった。赤ちゃん言葉を覚えて話せるようになるような感覚は、大きくなってしまった真琴にはない。英語のように、外国語を学ぶようにしていくしかないだろう。
 途方もない話だ、と真琴は思った。
 その時、スマフォの画面が光って、振動した。
 薫だった。
「もしもし」
「真琴、出れる? 下に車止めてるんだけど。それともお部屋に行った方がいい?」
 真琴はぼんやり見える部屋の時計を見て、母のことを思った。部屋で話すだろうけれど、万一聞かれたら、と思うとここに薫を招き入れて相談することは危険だ。



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