「うん。出れるよ。お昼も、夕飯も食べてないから、どこか食べれるところに行きたい」
「そう。私もラボから直接来たからまだ食べてないんだ。それじゃ、待ってるから降りてきて」
「ちょっと着替えるから時間頂戴。降りる前に『リンク』入れる」
 真琴は薄い掛ふとんを開いて、ベッドから起きた。
 着替え終えるとき、『リンク』で『支度できた』といれ、母に外で食べることをメールに書きながら、エレベータを降りた。
 送信してから、マンションを出ると、薫の車が見えた。真琴は軽く手を振りながら近寄った。
 メラニーが運転席から降りて、真琴の座る席のドアを開けた。
「薫?」
 暗い車内に見える薫は、何かいつもと違った。
「!」
 扉を持っているはずのメラニーがいなくなっている。
 気づくと真琴は男に腕をねじ上げられていた。
「おとなしく乗ってもらおう」
 ねじ上げられた腕の軋みで、人を呼ぶような声すらでなかった。
 抵抗出来ないまま車に押し込まれると、運転席には別の男が乗り込んだ。
 よく見ると、薫の横にも男がいて、薫は猿ぐつわをされていた。
 冷静に車を見ていればもっと早く気づくはずだ。
 自分が助からないことには薫も助からない。
 不注意さに怒りがこみ上げてきた。
 ドアが閉まると、車は加速した。
 腕を前で縛られ、薫と同じように猿ぐつわをかまされた。
『ヒカリ、なんとかできないの? ヒカリ!』
 真琴は今、この場面でヒカリが来ても、何も出来ないと思っていた。
 腕を取られた直後とか、車に乗る前ならともかく。
 この後があるとすれば、車から降ろされる時か、殺される直前だ。
 それでも、ヒカリがくるか来ないか、確かめたかった。
『ヒカリ! ヒカリ! 助けて、ヒカリ』
 都合が良すぎるか。
 あれだけ拒否しておいて。
 真琴は、前を走る車が常に同じことに気づいた。
 メラニーを乗せた車が前を走っているのだ。おそらくメラニーを監視する男が一人、運転する男が一人。
 この車の運転手、真琴の横にいる男、薫を抑えている男。
 車は、急に坂を上がり、左へ円を書くように周り始めた。
 おそらく高速道路を使うのだろう。
「目隠しをしておけ」
「そうだった」
 男たちは思い出したように薫と真琴にアイマスクをかけ、どこへ向かっているか確認させないようにした。
 どのみちスマフォがあるのに、と真琴は思った。
 しかし、自分の体にバッグは触れていない。取り上げられてしまったのだろう。当たり前か…… 真琴は浅はかな考えが嫌になった。
 車が止まり、真琴と薫は目隠しをはずされた。
 ぼんやりと見える車外は、コンクリート打ちっぱなしで、地下の駐車場のようだが番号やらビルの名前等が書かれたものは見当たらなかった。
 車から降りると、視野が広がったが、手がかりになりそうなものはなかった。そして、すぐに鉄扉を開けると、そこも鉄製の非常階段のようなものがずっと下に繋がっていた。
 降りるように促され、階段を降りていくと、一つ目床の下に、大きな空間が現れた。今降りている非常階段の先に、円筒を斜めに切ったような排気パイプが何本も並んで突き出ており、苦しそうな音を立ていた。



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