階段はそのまま、排気パイプが突き出ている床の下へと繋がっていた。
 何階分か、かなり距離の階段を降りきると、そこは小さなフロアになっていて、反対側に鉄扉がひとつあった。
 鉄扉の上に監視カメラがひとつと、フロアの逆側の角から非常階段方向を映しているであろう監視カメラがあった。さらに鉄扉の横にはレバーのついた金属のボックスがあった。
 しかし、それら以外は本当に金属とコンクリートだけで、何らかの名称を書いたプレートの類が一切なかった。黄色と黒の塗り分けて、『注意!』のひとつも書いて有りそうではあるのだが。
 薫と真琴は、猿ぐつわを外された。
 大きく息をするやいなや、薫が言った。
「あなた達! 一体どういうつもり」
 真琴にはその言葉がどういう意図で言ったものか分からなかった。
「ラボに連れていくという話じゃないの?」
「ラボ? ラボに連れて行ってどうするんだ」
 男は薫にそう言うと、鉄扉の横のボックスを開け、持っていたカードをその中へ入れると、ピッ、という機械音が響いた。すると、鉄扉からもモーターが回る音がし始めた。
 モーター音が終わると、男は鉄扉のノブを回した。
「強力なエントーシアンを捕まえる絶好のチャンスなのに?」
「君島。何を言っているの? 答えなさい」
 その名を聞いた瞬間、男の目つきが変わったようだった。だが、すぐに表情は元に戻ってから、こう言った。
「さあ、中に入るんだ」
 真琴は後ろから強く押された。
 薫は扉を抑えている、君島、と呼んだ男をずっと睨みつけている。
 別の男が先に入ると、中の明かりがついた。
 中は、どうやら長く細い廊下になっているようで、両脇に幾つかドアが見えた。人が近づくと明かりがつくようになっているらしく、男が歩いているちょっと先までしか見えていない。
「薫くんは、メラニーと一緒にそちらに入ってもらおう」
 一番後ろから、君島と呼ばれた男が言った。
 スーツの男は立ち止まって薫をその扉の先に引き入れた。
「真琴くんはまだまだ先だよ」
 真琴はヒカリをずっと呼んでいた。
 だが、少しも頭は痛くならなかった。
「ここがどこだとか、そういう質問はないのかね?」
「……」
 真琴はじゃあ聞いてやろう、と思いつつ、言葉を飲み込んだ。
「ま、言われたからといって話す訳ないんだが」
 真琴は振り返って、君島の顔をみた。
 笑っている。何か面白いことを言った風に。
「そうそう、男子四人に襲われて、無事助かったらしいじゃないか。真琴くんの武勇伝は我々も耳にしているよ」
「……」
 真琴は立ち止まって、君島を睨みつけた。
「怒らないでくれよ。あれは我々の実験だから、知っていて当然なんだよ」
 真琴は、この男が何故しゃべりたがるのか、意味がわからなかった。
「襲わせたのさ。我々がね。真琴くんの中の、ヒカリに興味があるのさ」
 この男たちは、薫をだまして、ボクらをここに連れてきたのだ。そこまでして連れてきて、今ここでその目的が達せられない内に、その目的を喋ってしまっている。
 ボクがそれほどバカだと思われているのだろうか。
「ヒカリの体の使いかたには驚かされるよ。何しろ真琴くんのように体重も体力もない体を使って、武術の有段者を倒してしまうんだから」
 ヒカリに用があると分かれば、ボクだってヒカリを呼び出そうとはしない。もしかして、初めからそれに勘づいてヒカリは出てこなかったのだろうか。




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