「ああ、真琴くんがヒカリを呼び出そうが呼び出すまいが関係ないよ。何も言わないで、ヒカリを呼び出したりして、この状況を逆転しよう、とか考えているのかもしれないけどさ」
 君島は前方を指さして、進むように命じた。
 真琴は縛られた腕を強く引っ張られた。
「歩きながら聞いてくれたまえ」
 その時、後ろの方で警報音がなった。
「ああ、気にしないで。ちょっと鍵の調子が悪いんだ」
 真琴が振り返ると、君島が指をスッと立てた。
 すると警報音が止まった。
「これはね。いつものことだ。なかなか業者を入れることが出来ないんでね。直すタイミングがないんだよ」
 真琴はまた突き飛ばされるように肩を押され、前へ歩き始めた。
「そこを入って」
「?」
 真琴の前を歩いてた男は、何か、首をかしげた。
「そこでいいんだ」
 首をかしげた男は、右のドアを開けて、後ろの連中を通そうとした。
 真琴も押し出されるように部屋に入った。
 部屋の中央にはドーナツを立てたような巨大な円形の装置があり、その中心の穴をくぐるような細長い台があった。
「あっ、これ」
 真琴は何かでこれを見たことがあった。
「病院とかにあるヤツ」
「真琴くんは本当に面白いね。病院にあるやつ、か。病院にあるのはMRIというやつだ。形はにているが、それとは別のものだよ」
 後から入ってきた君島がそう言った。
「何する気」
「さっきまでの話を理解できないのか?」
 苛立ったように男が言うと、君島が話をつないだ。
「我々はエントーシアンに興味がある。エントーシアンをコピーして他に人間に与えたらどうなる? 超人的な戦闘力をもった兵士。昼夜眠ることなく活動するエンジニア。不死の意思。それこそ今まで夢物語でしかないことが出来る」
 話を聞いているうち、真琴は君島という男が怖くなった。
「真琴くんの体育をみれば超人的な戦闘力をもった兵士は簡単に作れることがわかるだろう」
 縛られた腕を解かれたかと思うと、その巨大な円に繋がる台に、寝かされ、腕、腰、足を固定された。
「一人の体にエントーアンを二人入れて、記憶を共有する。睡眠は実は脳のためにあることがわかっている。エントーシアンと本人で、交代で寝て起きれば、新しい発想、優秀なソフトウェアも寝ない分だけ早く創造することができるだろう」
「エントーシアンにも心があるのよ」
 台が動き出し、真琴の頭がその巨大な円の中心へ動き始めた。
「そうらしいな。だが、今のことは例だ。適性や性格に適したことをさせるだけさ。もっとも、不適であればエントーシアンの消去も可能だ」
 真琴はそこまで聞いて、まともに相手をしていいのか悩んだ。
「じゃあ、ボクを調べる必要などないだろう」
「ハハハッ…… 気づいたかね。そうだね。今全部が実現出来ている訳ではない。これから調べるのさ。ヒカリを手にいれてな」
 狂ってる、と真琴は思った。
 漫画にある悪役のように自らの計画を語ってしまっている。テレビの向こう側にしかいない、と思っていた類の人間が、今、まさに目の前にいるのだ。
 その時、遠くでなるブザー音とともに、台の進行が止まった。



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