「……やめて。や、め…… て……」
 真琴は薫を見つめていた。
 すると、背後からもう一人いた男が真琴に襲いかかってきた。
 とっさに振り向いたが、何もすることができないまま、男の腕に捕まってしまった。真琴が腕を上げようとしても、上腕ごと強く抱えられてしまって、全く身動きが取れなかった。
「こ、こいつはヒカリじゃない。大丈夫だ」
 オペレーションをしていた男は急に大声を出した。
「加藤!!」
 真琴がコントロールしていた男は、電気が走ったように体を震わせ、手足をまっすぐに伸ばしてしまった。
「鈴木さん。どうしてこんなところに」
「なんでもないよ。加藤。それよりお前は、斎藤のところに行って、新野真琴を縛り上げろ」
「は、はい」
 加藤は真琴に抱きついている斎藤のところに行った。
「さあ、仕上げといくか」
 鈴木と呼ばれた男は制御用のディスプレイの前に戻り、マウスで何か選択をすると、キーから文字を打ち込んだ。打ち込んだと思うと、もう一度マウスを操作して立ち上がった。
「これで終わりだ」
 薫が全く反応していない。
 腕を縛り上げられながら、真琴は涙を流した。
 コピー機が動く時のような、電子機械音がすると、薫を乗せた台が円の中から外へ滑り出てきた。
「薫!」
「さあ、今度は君の番だ。加藤。薫を降ろして、新野をそこに乗せろ」
 加藤はうなずいた。
 薫に近づけなかったが、呼吸するように体が上下するのに気づき、真琴は再び涙が溢れてきた。
 体は死んではいない。
 ということは、と真琴は考えた。薫には不活性なエントーシアンしかいない。だから、体が生きているということは『薫が』生きているのだ、と真琴は思った。
 薫が台から降ろされると、入れ替わるように真琴が台に乗せられた。
 薫は壁に背中をつけるようにして降ろされ、そのままゆっくり倒れ込んでしまった。
 真琴は再び手足を固定され、台が円形の穴へ向かって動き始めた。
「君のヒカリは少々危険だからね。コピーついでに消去させてもらうよ。エントーシアンを全滅させるなんてとんでもない。大いに活用させてもらうよ。私達の金儲けのために」
 頭の先が、その円形の穴へ差し掛かると、真琴は目をつぶった。
 何か光が発せられているとか、目の前すれすれに飛び出てくるものがあるとか、そういうものではなく、何か心理的なものを感じた。
 少し恐怖心が薄らいで目を開けると、頭は完全に穴の中に移動していた。
「さて、始めるか」
 鈴木がそういうと、穴の中にあったLEDが点灯して真琴の顔を照らした。真琴はビックリして再びまぶたを閉じた。
 間もなく、何か不思議な熱を頭に感じた。
 LEDがついたせいで、勝手に熱を感じるはずだ、と思い込んでいるのかもしれない。手を当てて、肌に熱があたっているか確かめたかったが、腕も足も固定され、全く動かなかった。
 LEDの光にもなれてくると、真琴は目を閉じてしまった。
 眠い。この装置から何が出ているのか、それとも何も出ていないのか、全く分からなかったが、眠くなったのは確かだった。昼間中十分寝たはずなのに。体が眠いのはともかく、頭が眠くなるということは、やっぱりなにかあるのだ、と真琴は思った。



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