目の前にドアが現れた。
 中から何か声が聞こえる。
 それも自分の声が。
 ドアの向こうにいるのはヒカリに違いなかった。
 真琴は開けないようにそのドアの前を通り過ぎようとした。しかし、顔は逆を向いているのに、足はそのドアの方向に歩いてしまう。
 見えない誰かに、押されているようだった。それは踏ん張っても虚しいぐらい強い力だった。真琴は諦めてドアに向き直った。
『誰? ボクを押すのは』
 答えは返ってこなかった。
 真琴はドアから漏れ出てくる、自分の喘ぎ声を嫌悪した。喘ぎ声はもうひとつあって、時に重なり、強くなったり、弱くなったりしている。その声の主を真琴は知っていた。
 もう一人は田畑まさみだ。
 この前のクラブで交わった時と同じように、このドアの向こうで、二人は行為に及んでいるに違いない。
 だからどうしてもこのドアを開けてはいけない。真琴はどんどん近づいてくるドアに手をつけないよう、手を背中に回した。
『ヒカリをみて』
 真琴は背中を押す者の声を聞いた。
『ヒカリをみて』
 真琴は首を振った。
『イヤよ』
『ヒカリをみて』
 声は、どこか機械的だった。
 真琴は、現実の自分がどういう状況かを思い出した。ここでヒカリをみることで、今ボクの頭を囲っている円筒の機械が、ヒカリを読み取ることができるのではないだろうか。
 この声にしたがってはいけない。
 真琴はもう一度ドアの反対へ行くように足を踏ん張った。どこか、ドアと違う方向へいければそれでもいい。ジャンプしたり、サイドステップしてみたりしたが、見えない何者かは、すぐにその方向を感じ取って、真琴をドアの方へ押し込んだ。
『無駄よ。いくらドアまで来ても、ボクは開けない』
 真琴は見えない相手に勝ち誇ったようにそう言った。
『ではやり方を変えよう』
 ドアから漏れてくる声が、激しくなっていた。
 二人は快楽の頂点に達しようとしている。
『ヒカリ達のことを想像して』
 真琴は頬が熱くなるのを感じた。
『ヒカリは何をしているのか、どんな格好なのか、そいうこと教えてよ』
 連中は頭に働きかけ、ヒカリを浮かび上がらせ、コピーしようとしているのだ。この声に反応してはいけない。真琴はクラブで見たヒカリと田畑がうごめく様子を忘れようとした。
『ヒカリを見せて』
『イヤよ』
『ヒカリは危険な状態なんだよ』
 何が危険なのか。そっちの言いなりになることの方が危険だ。ヒカリの喘ぎ声が耳に入ってきて、思わずどんなことをされて、どんなことをしているのか考えそうになった。
『ほら、そのドアの開けないと』
『イヤよ!』
 もしかしたらこれは肉体を動かしているのかもしれない。薫がうなされるように何か言っていたのはこれなのかも……
『ヒカリの裸は見たくないの?』



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