怪獣は向かってくる真琴に対し、再び青白いガスを発射した。
『燃え尽きろ!』
 真琴は下降するスピードを落とさず、さらにスピンをかけて周囲の空気を巻いた。その巻いた空気によってガスの直撃をかわしていた。
『やはり馬鹿だな。そのまま食ってやる』
 怪獣はガスを吐きながら更に口を大きく広げた。
 上昇する怪獣とスピンしながら降りていく真琴の姿がぶつかった。何事もなかったかのように怪獣は口を閉じ、ゆっくりと地上に降りてくるモーションに入った。
『馬鹿だ。ただの馬鹿。これでヒカリはこちらのものだ』
 体のどこかに違和感を感じるわけでもなく、どこからか飛び去った気配もない。そのまま胃袋の中に収まってしまっている。
 後はゆっくりと消化されるだけ。
 戦いは終わり。
 真琴は暗闇の中で、意識を失いつつあった。
 勝てない…… 絶対に勝てない戦い。
 真琴はすべての感覚が遠く切り離されて、体を失い、口をうしなった。耳と鼻を失い、最後に暗闇だけを見ている目玉だけになったが、そのまままぶたを閉じてしまい、すべての感覚を失った。
 これが死後の世界なのか、と思うような、業火で覆われた山道を歩いていた。道は曲がりくねっていて、身長より高く燃え上がる炎で前が四五歩先しか見えなかった。
 そのくせ、山がどれくらい残っているかはずっと頭の中に浮かんでくる。ちっとも登れない。後ろの道は炎で塞がれ、戻ることは出来ない。
 息苦しい。足の裏から付け根まで、痛みと疲労で足を上げること自体が苦痛で、足を下ろすと激痛が全身に伝わった。
 いや、激痛があるからには生きているのだ、と真琴は思った。根拠はそれだけだった。
 再び、一歩を歩きだそうとすると、業火で覆われている後ろから声がした。
 真琴は振り返ったが、赤黒い炎が見えるだけで誰もいなかった。炎が近づいてくるので、再び前を向いて足を上げた。
「真琴、真琴、起きて」
 今度はハッキリと声が聞こえた。
「大丈夫、息はしているから。真琴」
 真琴は、自分の体がどうなっているのかを意識した。山は消え去っていて、まぶたから明かりを感じることが出来た。
「真琴っ、あ、動いた」
 もう一度、はっきりと声を意識した。これは薫の声だった。
 これまでの記憶が蘇ってきた。
「薫……」
「目が覚めた。真琴よね?」
「うん」
 薫がわざわざ、真琴、と確認した意味を思い出した。
 円形の機械に頭を入れ、ヒカリをコピーすると言っていた。エントーシアンをコピーして、他人に移植する。普通の人間より体が動かせるヒカリを使ってお金を儲けると言っていた。
 ヒカリはコピーされてしまったのだろうか。
 真琴にはわからなった。
「良かった。良かった……」
 薫がそっと体をかぶせてきた。
 薫の頬と真琴の頬が重なった。
 薫の頬は濡れていた。
「よかったよ…… 無事でよかった……」
 真琴は薫をそっと抱きしめた。
「ごめん。心配かけた」



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