真琴は少し顔が熱くなった。
 そして今度は真琴が薫に言った。
「(ボクらが男女だったとしても駅チューは恥ずかしいからしないよ)」
「(……私が望んでも?)」
 困った。単にからかっているのではなくて、本当に望んでいるのだとしたら、それは叶えてあげたい、という気持ちもある。
「(う〜ん。誰もいなければいいけど)」
「誰もいないのは、駅じゃないわ」
 急に薫は前を向いてそう言った。
 半分ぐらい薫は怒っているのだろう、と真琴は思った。
 電車がホームに入ってきて、二人は電車のいつもの位置に乗った。いつもようにカーブで薫が寄りかかってきて、真琴は腰に手を回した。
 すると、薫が真琴の手に手を重ねてきた。
「ん?」
 薫は真琴の手をとり、何かいろいろ眺め回した。
「体を鍛えて、男の手のようになってしまったのかと思って」
「どう思う?」
「いつもの真琴の手だった」
 真琴は軽く頭痛がした。
 よく知っている感じの頭痛。
 薫はまだ真琴の手をいじっている。
 良く考えたら、薫の中にも非活性のエントーシアンがいるのだ。こうなっても不思議はなかった。
『気をつけろ』
 窓ガラスにヒカリが写ったような気がした。
 しかし、すぐに頭痛もヒカリも消えてしまった。気をつけろ、とだけ言った。薫が手を取ったことに気を取られていたが、別の人物と接していたのかもしれない。真琴は注意深く周りの様子をうかがったが、特に変わった人物はいなかった。
 東堂本の駅につくと、生徒の流れにのって学校へと歩いた。
「どうしたの、急に?」
「さっきボクの手を見てたでしょ? だから、薫の手も確認したくなった」
 細くて繊細な感じのする指だった。
 白くて、本当にナイフやフォークより重いものを持ったことがないような気さえする。
「どう?」
 昇降口の前まで来て、薫は言った。
「……かわいい手だね」
 ここに来るまでの五分弱の間で、真琴に頭痛は来なかった。とすると電車の中の頭痛は誰なのだろう。田畑まさみに続く、次の【鍵穴】がいたということになる。
「薫、気をつけないと。さっきの電車に【鍵穴】がいた」
「え、いつ分かったの?」
「今思い返してみて、電車の中しかないって分かった」
「降りる前に判れば……」
「かなり弱いものだったんで、それが【鍵穴】だったか確証が取れなかったんだよ。ボクがもっと早く判断できればいんだけど」
「ヒカリが非協力的なの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど」
「……」
 上履きに履き替えると、固まったように動かない薫の肩を叩いた。
「さあ行こう。遅れちゃうよ」
 くるりと向きを変えると、薫のリボンで結んだ長い髪が揺れた。
 二人はそれぞれの席につき、朝礼が終わると、英語の授業が始まった。



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