真琴は授業についていくのがやっとだった。
 筆記体が下手で、後で読み返せないので、ブロック体で書くせいか、板書だけでも大変だった。しかし、外国語を学ぶことで、もしかしたらヒカリの記憶を読み解けるようになるかもしれない、と真琴は思っていた。
 ヒカリと真琴が分かり合えているのは、ヒカリが真琴の言語と記憶を理解できたからだった。まるで赤子のように見たり、聞いたりしている内に真琴の記憶や考えや言葉を理解したのだ。
 だから、ヒカリは体を使った体験が真琴より少ないにも関わらず、まるで同学年の女子のように会話が出来るのだ。しかし、真琴はヒカリの言語を知らない。だからヒカリが体を使っていた時の記憶が覗けないし、理解できないのだ。
 それは真琴の勝手な想像だったが、あながち事実無根なことではなかった。結果から推測すればこの考えで一致することは多い。
 だから現実世界で英語を学ぶことで、何かヒカリの言語を知るきっかけがつかめるのではないか、と考えたのだ。
 しかし、現実には英語でなにかをつかむほど真琴は授業についていけていなかった。
 全員で黒板の英文を発音している中、頭痛が起こった。
 うっすらと黒板の前にヒカリが立っているように見え始めた。
『いいことを知ったわ』
『……』
『真琴はボクが体を使っている時の記憶は読めないんだね?』
『そもそも、ヒカリは見せてくれているの?』
『真琴みたいに記憶を隠す方法って、まだわからないんだよ。だからボクの記憶は見放題だと思ってた』
『ヒカリの記憶の見方、教えてよ』
『知らないよ。真琴だってどうやって言葉を覚えたか記憶ないだろ? それと一緒さ』
 真琴はカッとなった。
『じゃあ、これはなんて言うの?』
 真琴は、そう言って赤色の粘着質の液体を両手ですくい上げた。
『ベッドで寝るときね。なんかそれに包まれたような感じになる』
『へ?』
 それを聞いて、今後どれくらいの時間がかかったとしても、ヒカリの記憶や言語を理解出来るようになる気がしなかった。
『それより、なんで授業のじゃまをするの?』
『危険な予感がする。さっき電車の中で感じた【鍵穴】は……』
「新野さん、次のセンテンスから」
 目の前のヒカリの姿が消えた。
 立ち上がると同時に、必死に教科書の文を追いかけて、読み始めた。
「はい。ありがとう」
 真琴は座って、再び授業に集中した。
 放課後、真琴と薫は生徒会に寄った。
 体育祭の準備で呼ばれていたのだ。
 生徒会長から一通りの話しを聞くと、二人は立ち上がった。
「じゃあ、よろしくね」
「わかりました」
「あと、これが生徒会の最後の仕事のよ。体育祭が終わったら、あなた達の学年が立候補して、新しい生徒会になるわ」
「え、もうそんな時期ですか」
「そこで、なんだけど」
「?」
 生徒会長は急に頭を下げた。
「薫、立候補してくれないかしら」



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