真琴にはそれでも何かが違っていた。
『悪いけど、ここはボクがやるよ』
 ヒカリが意識を奪ってしまった。
 何もかも闇で無音。あっという間に意識は眠りについてしまった。
 全感覚遮断からの眠りが覚めたのは、陽の光りに照らされた中居寺駅前だった。
 なんだろう……
 しばらく景色を眺めていると、軽い頭痛が起きる。
『真琴、おきた?』
 現実の風景に、ホログラムのように髪色の違うボクが向き合う。
『中居寺なの? どういうこと?』
『後で話す。ボクの記憶が見れるならみていいよ。一応、今は大丈夫だから』
 ヒカリは映りの悪い地デジの映像のようにボロボロ崩れていった。
『まって!』
『悪い。寝る』
 完全に消えてしまった。
 感覚をいきなり渡されると、ずっしりと重い。
 スマフォを開くと、バッテリーが切れかかっていたが、日時を真琴に教えてくれた。
 光りに意識を奪われたのが、昨日の夕方だから、一晩中居寺にいた事になるが……
 真琴はバッグを抱え直して、中身を見ると教科書がちゃんと入れ替わっていた。
 ずっとここに居たわけでもないのか。
 真琴は駅につくまでのエスカレーターで『リンク』をチェックしたが、いつものようなテレビや宿題の話し、体育祭のことが話題になっているだけで、特筆すべきことがなかった。
 改札の機械にカードをかざす。
 もう薫が来ている時間だ。
 薫……
 ボクを蹴り飛ばした、のは、薫?
「何!」
「ごめんなさい」
 真琴は後ろの人に謝った。
 改札を入ったところで立ち止まってしまったからだ。
 歩きだしながらホームの先にいるかもしれない薫を探した。もし昨日の女生徒が見かけ通りで、薫なら、ここに来ていないだろう。今日、ここで普通に話すには不自然すぎる。
 しかし、居る場合はどう考えたらよいのだろう。そっくりさんでもいるというのか? それとも双子? ボクの錯覚?
 ああ、とにかく体が重い。
 気持ちも引けてしまって、余計に歩きたくない。それでも人の流れに合わせるように、ホームを進むしかなかった。
 薫はいつものように背筋をピンとして、カバンを前に両手で持って立っていた。
 昨日のは『とりあえずボクの錯覚』と思って、真琴は声をかけた。
「おはよう、薫」
「おはよう」
 右手をカバンから離して、ボクに手をふった。
 錯覚、とりあえずちゃんと分かるまで、錯覚でいい。何度か自分に言い聞かせて、忘れることにした。
「真琴、どうしたの、その制服?」
「え?」
 自分を見てみると、確かに半乾きのドロがたくさんついているし、胸のリボンは潰れてしまっている。ところどころ破れたり、穴が開きかかっている。
「あ…… そうだよね。あれかな、あの時かな」
「真琴、私に何か隠している?」



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