「えっ、料理! すぐ出来ちゃうから……」
 他人の家で、しかも今料理を作っているのに、失礼過ぎた。あかねは頭をさげた。
「ごめん」
 美沙は赤い顔になって、小さい声で言った。
「私も入っていないから…… 後で入ろうよ」
 そういう意味か。美沙は一緒に入ろうと思っていたのだ。そういえばこの前もそうだった。
「う、うん。そうだね。一緒に入ろうか」
「え、うん」
 そんなに顔を赤くするようなことだろうか。
 以前は、もっと堂々としていたような。
 いや、私も少しのぼせそうな感じではあるけれども、とあかねは思った。
 スマフォからメールの着信音がなった。
「あ、ごめん、ちょっと見ちゃうね」
 あかねはスマフォを取り出し、メールチェックした。
 母が計量スプーンをどこに置いたのかを聞いてきた。あかねは記憶のある限りの場所を羅列して、メールを返信した。
「なんのメール?」
「この前学校に持っていった計量スプーンどこに置いたの? ってメール」
「お母さん、計量スプーン使って料理つくるの?」
 あかねは確かに普段計量スプーンを使っているのを見たことがなかった。
「わかんないけど…… 普通じゃないの?」
「あ、使うのが普通かどうかは判らないけど…… 私なんかだと、よっぽどレシピ通りつくらなきゃならないものの時かな、と思って」
「たとえば?」
「ケーキとか、初めて作る料理とか」
 あかねはなんか家に帰ってどんな料理を作っているのか確認したくなった。さっきのメールに続けて、何作ってるのかをメールで問い合わせた。
「さ、こっちも準備できたよ〜」
 あかねは運ばれてくる料理をみて前と違って、色鮮やかで凝った料理に思えた。
「時間かかったでしょ」
「ちょっとね。それこそ、今日は計量スプーン使ったわよ」
 あかねは美沙の顔を見ながら、幸せな気持ちになった。私の為に、こんなに頑張って料理作ってくれるなんて。
「……あ、不安がらないでよ〜。初めて作ったけど、さっき味見した感じじゃ、大丈夫だから」
「不安がってなんかないよ。感激したんだよ〜」
「そっか、よかった」
 向き合った美沙は、微笑んだ。
「いただきます」
 二人は食事を始めた。
 冷製のスープは味のバランスが良くて、美味しかった。小さなパンは形こそすこしいびつだったが、味は買ってきたものよりも美味しかった。
「美沙って料理上手よね」
「良かったよ〜 ちょっとドキドキだったの」
 おなかが減っていたのもあったが、食欲をそそる味付けだった。あかねは食べ過ぎていた。
 食べ過ぎた、と思うと、この後に見せなければならない自分の体のことを考え、すこし憂鬱になった。
 しまった。この後、お風呂だった。こんなに食べ過ぎなければよかった。
「どうしたの? なんか変な味した?」
「ううん、そんなことないよ。すっごく美味しいよ」
 美味しいから問題なのだ。



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