真琴にはこの光景は見えているが、ヒカリが何を思ったとか、何を考えているのは全く読めなかった。
男が一つ階段を登ってきた。
真琴は素早く水平に蹴りを出した。男は軽くダッキングしてそれをかわした。
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男が一つ階段を登ってきた。
真琴は素早く水平に蹴りを出した。男は軽くダッキングしてそれをかわした。
再び体を戻し、男はまた階段を一歩上がった。後ろにもう一人追手が追いついて来た。
真琴はさっきよりコンパクトに、水平に蹴りを繰り出した。男が手で足を取ろうとしたのに気づき、膝を使って蹴りの軌道を変えた。
蹴りも空振りしたが、足を取られることもなかった。
間合いだけが不利になっていく。
真琴左へ下がって、階段から距離をとった。
瞬間、手すりを乗り越えて、踊り場へ飛び降りた。後ろには二番手の男が、階下には薫が登ってくるところだった。
そのまま階下へステップすると、薫の頭上を蹴り込むようにジャンプした。
薫は体を屈めてそれを避けた。
が、ヒカリの目的は薫を攻撃することではなかった。薫を飛び越えて、下のフロアの扉のあるところへ飛び降りると、扉を開けて駅ビルへ入り込んだ。
非常階段の暗さに比べて、急に明るい店内に入ったせいか、動きが急に緩慢になった。
それでも人混みを避けながら、真琴は走っていた。
すると、突然後ろから声がした。
「ごめん! 謝るからさ」
振り向くとその声は、Tシャツにジーンズの男だった。
「ごめん、戻ってきてよ〜」
大きな声と手を合わせるジェスチャーで、一気に店内の人の目を集めた。
「あなたのこと、呼んでるわよ」
近くにいたおばさんが、お節介にも声をかけてくる。
真琴はそれを無視して更に、店の奥へと走りだした。階下へ降りる別の階段を見つけると、そのままその階段を下りはじめた。
「まこっちゃん、待ってよ〜」
男は、のんきにも大きな声で近づいてくる。
さっきとは別のお節介なおばさんが、言った。
「彼女さんならこっちに行ったわ」
店内の人間を味方につけられてしまった。
ヒカリは何を思ったのか、下のフロアの中に入っていった。
店内を進んでいると、追いついてきたTシャツの男が、再び大声で叫んだ。
「ごめん、あやまるからさ〜 戻ってきてぇ〜」
真琴はエスカレータを見つけて、そこから駆け下りた。
「こっちよこっち!」
やっぱり余計なことを言う客がいて、Tシャツの男には行く先がバレてしまっている。
真琴の記憶の中では、この下のフロアには連絡通路があり、アネックスに移ることだ出来るはずだった。ヒカリが果たしてそんな真琴の記憶を使って逃げようと思うかは別だった。
真琴の体は、全くそのフロアを抜けることなく、そのままエスカレータを使って更に下を目指した。たぶん、駅のあるフロアに出たかったようだった。
「非常に危険ですから、店内を走らないでください。繰り返します、店内を走らないでください」
どうやら真琴が走るのをみて、誰かが店員に忠告したらしい。
全フロアに放送が入って、棚を整理したりする店員が、急に真琴の方を向いて手を広げてきた。
真琴はそのまま走って、その店員の広げた手の上を飛び越え、空中で前転した。着地で制服のスカートが捲くれ上がるのが分かった。
なんて恥ずかしいことしてくれんの。真琴は思った。こんな派手なことをやってしまったら、今後駅ビルで買い物出来ないじゃない。
「まこっちゃ〜〜ん。どこ〜〜」
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