真琴はそれを見ることしか出来ない為、まるで他人事のようにつぶやいていた。
 更に何段か降りて、繰り出される蹴りを何度もかわしていた。すると、非常扉が開く音がした。
『来た!』
 ヒカリは大きくバックステップして、数段を飛び降りると、向きを変えて駆け下り始めた。
 そのしたの非常扉も開くと、そこからは黒スーツの男が出てきた。
「フッ!」
 ヒカリは、壁を蹴り、両腕を素早く伸ばしてスーツの男の腹を突いた。男は下がりながらも、それを受けてしまった。
「んっ……」
 バランスを失いながら壁に背中を打ち付けたのを見て、真琴は素早く階段を下った。男はギリギリ足を出して、真琴の左足を引っ掛けた。
『ヒカリ!』
 跳ね上がった左足のせいでバランスを崩し、頭から階段を落下した。
 頭を守るように腕を床につきながら、前転するように着地するものの、腰を手すりに強く打ってしまった。
 見ている真琴にも激痛が走る。
「やばい!」
 目を開いた先に、薫が立っていた。
「うなされてるね。ぐっすり眠れない?」
 薫はタオルを持って、ポンポンと軽く押し付け、真琴のひたいの汗をとった。
「真琴、お昼ご飯どうする? 真琴のバッグを持ってきてるけど」
「今日は買って食べる予定だったの」
 上体を起こそうとするが、力が入らない。真琴は自分の体が全く動かなかったことにビックリしてしまった。
「分かった。買ってくるね。何がいい?」
「チキンあったよね。それ二本とクリームパン」
「うん。分かった。じゃ行ってくる。起きないで寝ててね」
「ありがと」
 真琴は軽く手を振ると、再び眠りについていた。
「とった!」
 Tシャツの男が、スーツの男の脇から飛び降りて来た。
 真琴は体をねじり、小さなスペースを転がって踏み潰そうとしたTシャツ男の攻撃をかわした。
「それ! それ!」
 顔面を踏み潰そうと、かかとをおろしてくる。
 真琴は首をねじったり、曲げたりしながらすれすれでかわすが、もう後がないことを感じていた。
「じゃあ、こっちだ」
 男は攻撃する足を変え、踏み込んで真琴の脇腹を蹴り込んだ。
 全く回避動作をしないまま、その蹴りを受けてしまった。
「うっ……」
 苦痛で見えている風景が歪んだ。
 無抵抗に階段を転がり落ちていくのが分かった。
『ヒカリッ! ヒカリ立って!』
 奴らに捕まらないから保健室で寝ているのだ、とは思うものの、無意識にそういう声が出てしまっていた。冷静になれるような状態ではなかった。
「……って来たよ」
 真琴は手に温かいものを押し付けられた。
「真琴? 起きてる?」
 暗転の後、まぶたが開いた。
 そこには薫の姿があった。
 ヒカリが見せる映像に映っている姿と、寸分違わぬように見える。
 ここにいるのは、薫。
 真琴はそう思っていた。
 昨日の晩に見たのは、薫の姿をしたなにかだ。
「体調悪いのは分かるんだけど、食事するんならこっちきて食べてくれない?」
 保健室の先生がガタガタを机を移動してくれているようだった。
「起きれる?」
「うん。多分」
 真琴は脇腹を手でさすると、朝のような違和感や痛みがなかった。
「?」
「大丈夫? 真琴。ここで食べれるように、トレイか何かないか聞いてみる」



ーーー
いつもありがとうございます。
お手間でなければクリックをお願いします→にほんブログ村 小説ブログ ライトノベル(小説)へ
にほんブログ村