「うん。もう寝るからメールしないでって返したから…… もう大丈夫だと思う」
 裸のままスマフォを持っている自分の姿が、美沙の後ろの鏡にうつっていた。なんてまぬけで、かっこ悪いんだろう。
「あかね、カゼひくよ、早く入ろ」
「うん」
 あかねは、スマフォを戻そうとして画面が変になっていることに気付いた。
 どうやら、さっき美沙の声にビビった時、画面に触れたせいだろう。画面を戻そうとしたが、あかねは表示内容を見て固まってしまった。
「どうしたの? あかね」
「……どうして、どうしてこんなところで!?」
 浴室の扉がガラッと開く音がして、美沙が出てきた。手早くタオルを巻くと、あかねの横に立って画面を見た。
「BITCH…… ってこれ、例の体育館の?」
「なんで? なんでこんなところに?」
 スマフォを放り投げて頭を抱えるあかねの肩を、美沙は抱き寄せた。
「ちょっと貸して、あかね。これ、今の状態を表しているのかな、本当に」
「……どういうこと?」
「ほら、ここに最新の状態を取得っていうメニューがあるでしょ? これを実行すれば本当に今、BITCHがあるかどうか分かるわ」
「いいよ、本当にあったらどうするの?」
「けど、これいつの状態かわからないじゃない。押してみるよ?」
 あかねはうなずいた。
「『最新の状態を取得』を押しました…… ほら、見て、あかね」
 あかねはそっとスマフォの画面を覗き込んだ。
 WiFiのリストがパッと消え、また一つづつリストに加わっていく。BITCHは出てこなかった。
「ほら! 大丈夫よ。気のせいだよ。私もびっくりしちゃった。ハハハ……」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。ほら、気のせいだったんだよ」
「けど、今はないけど。今は表示されてないけど…… どこかですれ違ったってこと? そうだよね?」
「……」
 美沙は何も答えなかった。
「どこだろう、こんなの気付かないよ。なんか常にチェックするようなアプリないのかな? 見つけたらマップに記録してくれるような」
 美沙の髪からポタポタとしずくがこぼれている。うつむいて、ただ立ち尽くしていた。
「美沙?」
 その姿を見て、あかねはやっと冷静になった。
 スマフォをそのまま着替えの上に戻し、美沙を抱きしめた。
「ごめん。風邪ひくから、もどろう?」
 肩ごしに美沙が鼻をすするような声が聞こえ、泣いているのだ、と確信した。
 何かスマフォの画面に変化があったようだが、あかねはあえてそれを見ないようにし、お風呂へ戻った。
 二人は同じ方向を向いて、湯船に入った。
 美沙を抱えるように抱きしめながら、あかねは「ごめんね」とささやき続けた。美沙の答えは返って来なかった。
 ようやく体が温まってきた頃、美沙は無言で立ち上がった。
 シャンプーをして、リンスを済ませると、「先に出ているね」とだけ言って出ていってしまった。
 あかねも続いて、髪を洗うと、体を拭いて持ってきた部屋着に着替えた。
 スマフォの充電が不足していたので、あかねは電源を切って美沙に充電させて欲しいと言って、美沙の部屋のプラグを使わせてもらった。
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