「そうじゃないよ、ここ、朝は痣になってたんだよ」
 薫が言いながらさすってくる。
「かわいいブラしてるのね」
「見てるとこそこ? 涼子はどうしてそうやって茶化すようなことばっかり言うの?」
「駅で合った時は熱も出ていた。午前中の授業の間、ずっと寝ていたとはいえ、確かにこんなに回復するわけがない」
「そうね…… けど、もうお腹は触らなくていいんじゃない?」
「おっと……」
 真琴は制服を正した。
「この脅威は、私にも涼子にもあるのよ。非活性とはいえまだエントーシアンがいる。涼子は元々エントーシアンが居たわけだし、影響があった可能性は私より高いかも」
「私も世界陸上とか出れる?」
「そういう問題じゃないでしょう。通常の医療が通じなくなる可能性もある。誰も掛かったことのない病気になる可能性だって」
 つまり人ではなくなっているのだ。
 ボクや薫、涼子は程度の差こそあれ、何らかの変質が始まっている可能性がある。やはり薫の言っていたようにエントーシアンを取り出さないと行けないのだろうか。
「まだ今の状態じゃ、どうなってるのかわからないよね。ただ時の進み方は尋常じゃないかもしれないけど、性質が変わったんだとすると、何かもっと具体的な変化があってもいいよね?」
 涼子にしては珍しく茶化さない内容だった。
 涼子はコーヒーを置いて、背もたれによりかかった。
「例えば」
 そう言って指を一本立てた。
「例えば、角が生えてくるとかさ、股間にいちもつが出来るとか、そういう具体的な変化はないの?」
「あるか! そんなもん!」
「結局茶化してたのか」
「だから…… まだ笑えるレベルだってことだよ」
「けど、回復は異常に早いって……」
 涼子は寄りかかったまま言った。
「外観で分かるようなものじゃないからイイでしょ? それとも本当に皮膚がトカゲのようになったり、毛むくじゃらになりたいの?」
「……」
「とにかくなんとかしなければならないの。私も涼子も他人事じゃないのよ」
 涼子は小さい声で言った。
「(そんなのどうしようもないじゃん……)」
 確かにそうだ。
 ラボに行けばなんとかなるのかもしれない。ヒカリを消去してしまえば……
 ヒカリを消去その代わり、もう別の人にエントーシアンが突いたことは確かめられなくなる。人類が本当に侵略されつつあるのなら、別の方法でエントーシアンを判定し、そのラボの機械にかけなければならない。
 国規模の政策になり、全国民を消去装置にかけることが出来れば、真琴が一人で頑張る必要もなくなる。普通の高校生活に戻れる。
 涼子が言った。
「話はかわるけどさ」
 薫が答えた。
「何?」
「真琴が言ってた、ヒカリの記憶って私達からも見れないの?」
「え? もしかして以前同じ夢で戦った時、私の記憶を見たてたの?」
「記憶が見れたかはわからないけど、同じようなことは出来ないのかなって。早送りの方法も探そうよ」


 



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