『うわっ!』
いくつかのマンホールの蓋は鎖が伸び切って、その反動で地面に打ち付けられた。別の蓋はそのまま鎖が切れてコロコロと転がていった。
『これってもしかしてニュースになってた??』
真琴は自分は朝までヒカリに感覚を奪われ、ロクにニュースも確認していないことを思い出した。
この圧力下にいたら、この火柱の中にいたら、ボクはどうなっていたのだろう。
映像を見ているような感覚ではあるものの、ヒカリがじかに感じたものが、ほぼそのまま伝わってくる。
奴らは完全に殺しにきている。
周囲には異様な匂いが立ち込めていた。灯油なのかガソリンなのかまでは分からなかったが、そういう油の類の匂い。火に入れてはいけないものを入れて、焼け焦げた不自然な匂い。
ヒカリは立ち上がると、火柱の上がったマンホールの通りを外れるように、住宅街の坂を登っていった。
さっきのハシゴでかなり息が切れていたのに、さらに坂を登り続け、丘の上にあった小さな公園に入った。
鼓動も限界近くなっている。
公園の植え込みの近くに倒れ込むように寝転んだ。砂埃が舞い上がり、首もとや顔の汗にくっついて気持ち悪かった。
通りから見つからないようにする為に寝そべっているのではなく、疲れて動けないようだった。映像から判断するに、まだまだ暗い夜の空だった。ヒカリは音がする度、通りの方を警戒した。
息が整って、誰も追いかけてこないことが分かると、目を閉じて少し休んだようだった。
真琴は映像が完全に真っ暗になると、映像の変化を確認しながらスライダーをゆっくり動かした。
やはり物音がすると、目を開けて通りの様子を伺っているようだった。集中して寝れていないことが、映像だけでもわかる。
『真琴! あんた、サマーソルトキックしたよ!』
横で涼子が叫んだ。
真琴はスライダーから手を離し、チラリとそっちを見た。この角度では映像は見えるはずもなかった。
真琴は目の前の暗闇の映像を見つめながら言った。
『本当にそんなことしたの?』
何かテンポがズレたころに涼子が答えた。
『この時制服だよね。ってことは、スカートだよね? パンツ丸見えなんじゃない?』
また、しばらくの間が空いてから涼子は続けた。
『サマーソルト食らって、スーツの男がぶっ倒れたよ、死んではいないと思うけど』
すると、薫が大きな声で言った。
『アレってバック転するときに蹴り上げみたいなもんでしょ? 現実に効果がある蹴りだとは思わないんだけど』
『蹴り上げた時にはかなり反動が来たから、それなりに威力はあった感じだけどね』
真琴はまた暗闇の映像をスライダーで飛ばした。
公園が車のライトで照らされていた。
ヒカリはどんどん公園の奥へと向かったが、すぐに公園の端にたどり着いてしまった。
ヒカリは急に何かを口に出した。
真琴には感覚としてそれが何を言っているかがわかったと同時に、声に出していた。
『聖なるバトンよ』
映像の中のヒカリの左膝が輝きだし、右膝をつくように座ると、左手をその光りの中に差し込んだ。
骨の髄をえぐられるような痛み、実際はそんなことが痛みとして感じ得るのかもわからないが、激しい痛みに耐えながら、ヒカリは膝からバトンを取り出した。
Tシャツの男が車から降りて、ヒカリの方へゆっくりと歩いてきた。
Tシャツの男は、ヒカリの方へ腕を伸ばした。
手には拳銃が握られている。
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