たいして動いていないうちから、あかねは変な汗をかいていた。
 おかしな緊張感が部員を包み込んでいるようだった。
「あんた達、今日はなんか変ね。五分休憩」
 笹崎先生がそう言うと、あかねはあなたがこの変な状況の中心なんだよ、と、心の中で突っ込みを入れた。
 どうやら皆同じことを思っていたらしく、橋本部長が笹崎先生のところへ駆け寄って何か話し合いが始まった。
「部長、先生の様子がおかしいって、ちゃんと話すのかな」
「すごい言い出しにくいよね」
「けど、事実なんだから」
「先生に、何かあったんですか? とは聞けないでしょ」
「なんか、遠回しでも言わないと」
 皆、それぞれに考えていたことを一斉に話し始めた。
「あかね、今日なんだけど」
「麻子、あんまり今から考えすぎると」
「凄く不安よ。本当に携帯も返ってくるか」
 神林があかね達の方を睨んだ。
 あかねの様子をみて、麻子が神林の態度に気付いた。
「やだ、こっちみてた」
 麻子はあかねの後ろの隠れるように動いた。
 なんでみられているというのに、そういう目立つような動きをするのか、あなた達の悪口を話していましたと言わんばかりの態度だ。
「麻子、そんな風にしたら神林達を余計に怒らせるって思わないの」
「……けど。怖い」
 あかねはイラッとしていた。
 麻子のブリッ子は今に始まったことではない。が、まさかこんなにイヤなものだとは思っていなかった。
 加えて神林の態度も気に食わない。
 大体、いたぶりたいだけだったら、何もワザワザ日付を指定して、よく分からない場所に連れて行く必要はない。何がしたいのか、一切こちらに明かさず、じっとこっちらを観察しているだけ。趣味が悪いにも程がある。
 麻子が不安になるのも無理はない。あかねはそう考えた。
 入り口の扉が開いて、橋本部長が戻ってきた。
 しかし、笹崎先生の姿はなかった。
「まだ休憩時間だけど、ちょっと集まって。話し聞いてくれる?」
 部長は、皆がバラバラと集まってきたところで話し始めた。
 部長の声が聞こえると、雑談がピタリと止まった。
「笹崎先生は体調が悪いそうです。顧問として部活をみなければならないので、学校にはいるそうですが、今日は部活の指導はお休みになります」
 静寂は終わり、急に部員達がざわつき始めた。
「体調が悪いから当たり散らしていたってこと?」
「なんかぁ〜、一気に気が抜けた」
「ま、そんなことかと」
 あかねも、何か気が抜けた。
 いつものように指導する気に見えていたからだ。最初から体調悪いと宣言して、椅子にでも座っていれば良かったのだ。
 部長が少し大きい声を出した。
「さ・わ・が・な・い! 後、そうね……あと二分したら練習再開します。気合入れ直してよ。じゃ一旦解散」
 あかねは壁に背中をあずけて、とんとんとシューズで床を叩いた。
 笹崎先生、やはり、あなたが……
 あかねの脳裏には、川西の姿が思い出されていた。あの日、川西はあかねにWiFiのことを話してくれた。
「先輩、ストレッチ付き合ってください」
 香坂の声で、考えは途切れてしまった。



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