「香坂さん、上条さん、準備出来た?」
「行きましょう」
 麻子は準備が整ったようだった。香坂はまだ途中のようで、バッグの中を出したり入れたりしていた。
「慌てないでいいわよ」
「ありがとうございます。先輩」
「なんであんたが良い悪いを判断してんのよ。香坂、早くしなさいよ。残りはあんただけよ」
 苛立つような声を聞いた周りの部員が、神林の方をチラッとみていた。
「なによ!」
 神林は誰というわけではなく、周りにそう言った。呆れたような顔をする者、怖がって見ないフリをする者、あからさまに腹を立てたような者、様々な反応だったが、神林に文句を言ったものはなかった。こういう時、何か言ってくれるとしたら部長だったが、笹崎先生への報告でまだ帰ってきていない。
「支度出来ました」
「ほらっ、行くよ」
 神林はそう言うと、香坂のではなく、あかねのバッグをぐいっと引っ張った。あかねは神林を睨みつけたが、お互い何も言わなかった。
 部室を出ると、待っていた町田と山川と一緒に、六人は学校外の公園に向かった。
 何をするのか全く分からかなった。
 公園には、小学生が二三人、鬼ごっこでもしているのだろう、互いを追い掛け回して遊んでいた。このままこの公園に入るのだろうか、と神林の方を振り返った。
「何よ、文句あるの?」
「そうじゃないけど」
「それじゃ、みんな駅に向かって。駅についたら百六十円の切符を買って」
 駅だって? どこに行かそうというのか。この三人は、この公園で何かする為に呼んだんじゃないのか、とあかねは思った。
「じゃ公園は?」
「小学生に占拠されてるから、当初の予定を繰り上げるわ」
「当初の予定?」
「いいから、駅に向かって」
 六人は駅に向かった。
 香坂と麻子はスマフォがないから現金で切符を買うと言って券売機へ回っていった。あかねはスマフォと別で、ICカードそのものを持っていたので、そのまま駅に入った。
 神林らに言われるままに電車に乗って、指示された駅で降りた。
 あかねには記憶があった。
 見覚えのあるコンビニを通過して、角を曲がるとマンションが見えるはず。そこの入り口はオートドアで仕切られていて、部屋番号を入れて奥のオートドアが開く仕組みだ。
 あの時はここがどこだとか、全く分からなかった。
 だが、いまのあかねは知っている。
 コンビ二の前で突然、神林が皆を止めた。
「ちょっと待って」
 山川が何か電話をしている。
 聞き取りにくいらしく、何度も聞き返している。電話が終わったと思ったら、山川は反対方向にむかった。
「駅の反対側にバクバクバーガーがあるから、そこで時間潰す」
 無言のままの集団が、そのままチェーンのハンバーガーショップに入って、全員Sサイズのドリンクを買った。そして、一人用のスツールに六人並んで座った。
「私は初めてなんだけど、あかねはこの駅来たことある?」
「うん」
「美々は?」
「私も初めてきました」
 何があるわけでもない、つまらない駅だ。



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