「あの……」
 座った麻子は、揃えた膝の上で手をぎゅっと握った。
「私達のスマフォはいつ返してくれるんですか」
 反対側に足を高く組んで座った神林に言った。
「まあ、落ち着きなよ。なんか飲むか、なんか食べるかい?」
 急に、町田が雑誌を閉じて、膝を揃えて座り直した。山川も何かを感じとったように、スマフォを隣に置いた。
「?」
 神林が指を差しながら何かボソリと言うと、山川と町田がキッチンの方へ向かった。
 しばらくは、誰も何も話さず、ただ神林対あかね、麻子、香坂の三人という配置の緊張感だけが続いた。
「お、来た来た。ほら」
 神林が立ち上がって、山川からトレイを受け取った。町田は持っていたものを山川に渡し、町田はまたキッチンへ言った。
 神林のトレイの上には様々な色のコールドドリンクがのっていて、山川が持っている分も含めると、人数よりも数が多いようだった。
「好きなのを選んでいいよ」
 あかねはなんだか分からず、後ろにいた山川のトレイから、トマトジュースのような赤いドリンクを選んだ。
 手に取って、匂いがするのか確かめてみたが、入った時からずっとしている、甘い香りのせいで、飲み物の匂いは分からなかった。
 麻子は緑のものを、香坂は黄色のものを取って、神林も黄色のものを取った。
「ほら、ミチ、エリ、戻ってきて。乾杯にしよう」
 神林がキッチンの方を向いてそう言った。
 乾杯? なんでそんなふざけた言い方をするんだ、とあかねは思った。あんたたちとは仲間でも何でもない。今、ここにいるのは、スマフォを取り上げられて、強制的に連れてこられただけだ。
 神林が言った。
「あかね、怒るなよ。仲直りしよう、って言ってるんだよ」
 山川が小さいトレイを全員分配って回った。スナック菓子とコースターがのっていた。
 町田が小分けにしたスナック菓子を大きな皿に入れたものを持ってきて、床の中央あたりに置いた。
 山川と町田も揃ったところで、神林が言った。
「本当だよ。これから私達は仲間になるんだから、仲直りだ。これは仲直りの為の乾杯なんだよ」
「……」
「その前にスマフォを……」
「それは仲直りの後」
 神林は指を立てて口の前につけた。
「いい? 全員飲み物持ってる?」
 お互いが全員の顔を見渡す。
「乾杯!」
 神林達はグラスを掲げ、それぞれグラスを合わせたが、あかね達はそんな気分ではなかった。それでもドリンクに口をつけ、一口二口飲んでいた。
「美味しいね」
 ストローを外すと、麻子がにっこりしてあかねに言った。
「そっちはどう?」
「トマトなのかと思ったけど、別にそういうわけじゃなかったみたい。甘くて美味しいよ」
「ちょっと頂戴。こっちも飲んでいいよ」
 あかねは緑色の液体を飲む気はしなかったが、麻子の手前があるので、少し口に含んだ。
 変わった味だが、不味くない。
「私も混ぜてください」
 香坂もドリンクを差し出したので、あかねも麻子も黄色いドリンクを回して飲んだ。
「ちょっとだけ……」
「これ、だけじゃないよ」



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