突然敬礼するなり、警備員は出入口方向へ走り出した。
 真琴も何かを感じてその警備員を追いかけるように出入口に向かった。
 そこには涼子とその後ろに隠れるようにしている薫、追い詰めようとしている警備員がいた。
 そして……
「まさみ!」
 その声を出した直後、目の前が真っ暗になった。真琴は完全に感覚を奪われていた。ヒカリが体のコントロールを奪ったのだ。
 真琴は、普通なら意識が飛んで寝てしまうところだったが、生理のおかげで一部の痛みを感じていた。
 そのせいなのか、うっすらと見えているものを意識出来、何を言っているのかを感じることが出来た。
 田畑はヒカリの声のする方を振り返った。
「!」
 ヒカリの姿を認めたが、すぐに薫の方を睨みつけ、涼子を中心に田畑が左に動くと、薫は右に動いていた。
 警備員は田畑の背後から近づいていて、どうやら薫ではなく田畑を抑えようとしている風だった。
「まさみ、後ろ」
 警備員がそっと田畑の腕をとりにかかったところを、ヒカリは大声を出して気付かせてしまった。
「君、あの娘(こ)の知り合い?」
 エプロンをした店員の男に話しかけられた。
 男は睨むような表情で続けた。
「君も一緒に来なさい」
 ヒカリは男に腕を捕まれそうになったが、さっと腕を引いてしまった。
「何もしてません」
「いいから、来なさい。一緒にカメラの映像を確認するだけのことだ」
「だから、何もしていません」
 ヒカリは当然のことだが否定した。
 田畑が気付いたようにチラッとこっちを見た。
「ヒカリ! あんたは逃げな」
 ヒカリはそのまま走り出した。
 涼子も薫も、まさみも置き去りにして。
 腹部の痛みのせいで、あまり速くは走れていないが、追ってくる店員はあっというまに振り切ってしまった。
 後ろに店員の姿が見えなくなると、ヒカリは急に目標を失った。立ち止まって、左右を見回したが、田畑が一緒に逃げてきたわけではなく、街の人通りの中に一人立ち尽くしているだけだ。
「驚いた。まさかとは思ったけど」
 ヒカリは声のする方を振り向いた。
 そのまま軽く拳を握って、顎の高さに上げて構えた。
 視線の先にはTシャツの男が立っていた。
「生きてたんだ」
 いなくなりかけたヒカリが、頭のてっぺんからつま先までコントロールを強めた気がした。
 真琴は微か見える映像と音だけをもらい、ほとんど思考が出来なくなっていた。
 断片的な映像と音を繋げて、ほとんど働かない頭をフル回転させて分かったことは、人混みに逃げ込むようにして、駅ビルまで逃げてきたことだった。
 真琴に感じられる映像は、未だに何かすだれがかかっているような、フィルター処理をされたような、ボヤケた画像だったが、相手にしているのが昨日のTシャツの男だと判断することは出来た。
「逃げ切れると思ってるの?」
 今日はベストを羽織っていてベストの男、であり、昨日の印象とは違うが、男の殺気は同じだった。男はポケットからくるみのようなものを取り出し、床に叩きつけた。不思議なことに、その実は跳びはねるわけでも、割れてしまうわけでもなく、床に溶けていった。
「!」
 駅ビルの雑踏の中で、急に周りを通行する人間が避け始める。まるで見えない壁をみて回避しているようだった。
 真琴はその様子を目で追っていたが、ヒカリの視線はまっすぐTシャツの男、いや今日はベストの男を捉えていた。



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