「やっぱり! おかしいと思った。これ、お酒なのね!」
「ばっちり証拠は撮ったよ」
「写真でみたってお酒かどうか分からないでしょ?」
 山川がニヤニヤしているのに気づき、後ろを振り返ると、町田が用意したと思われるトレイに酒瓶やジュースが並べられていた。
「これが証拠、訳には……」
「証拠にならなくても、アップすれば炎上して学校の先生の目にもとまるでしょうね」
 山川は笑いながら続けた。
「そこまでで十分なの、別に退学にならなくても、罰せられなくても構わない。周りから白い目で見られるようになるだけで十分」
「こんなことをする為にワザワザこんな部屋に呼んだの?」
「そうじゃないよ」
 背中を預けて座っていた神林が、体を起こしてそう言った。
「そうじゃない。これは、仲間のしるしさ。仲間になって欲しいから、安易に抜ける、なんて考えてほしくないんだ」
 それは脅迫というのだ、あかねの怒りが増した。
「みんなと仲間になって、あることを成し遂げるため、手伝って欲しい」
「あること?」
「まずこれを見て」
 神林の横の壁に、光が当てられると、部屋は急に暗くなった。麻子の影がその壁に映ってしまって山川が「みんな座って」と言った。みんな、そのまま大人しく座った。
 映像が流れ始めると、あかねも麻子も声を上げた。
 遠山美樹先輩の伝説のビデオだった。
 香坂もあかねによりかかりながら、映像をじっとみつめていた。
「私もこの動画、知ってますよ」
 あかねは自分たちの部活の勧誘の際、エキシビションで試合をして見せたのだが、本当に可愛らしく、かつ上手い選手だった。動画は、大会の準決勝をまとめたものだったが、なかまを思いやるすがたや、汗を拭うしぐさ、レイアップシュートひとつとっても、まるで遠山先輩の為に道を開けたように綺麗にコートを走り抜けていく。可愛い、上手い、美しい。そんな選手だった。
「見たことあるひと」
 神林は手を上げろというように、自ら手を上げてみせた。
 町田も山川も、麻子も美々も手を上げた。
「あかね」
「当然あるよ」
 動画は急に白黒のエフェクトがかけられ、スローモーションになり、止まった。
「え?」
 急にカーテンがかかった、病室のベッドが映しだされた。
 まさか?
「えっ、どういうこと」
「まって……」
 映像から小さい声が聞こえてくる。
『病院だから静かにね』
『わかってる』
『いくよ』
『せーの、美樹せんぱ〜い』
 カーテンが開く。
 カメラが近づいていくと、顔まで掛かっている布団を開けて、顔を出した。
 遠山美樹先輩だった。
 コートの上と同じ、明るく、優しい笑顔。
 けれど着ているのはユニフォームではなく、病衣だった。



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