そして後ろで映っている美樹先輩の母親らしい人物の表情がどことなく暗い。
 あかねにはいやな予感しかしない。
『どうですか? こんどの試合は勝てそうですか?』
 友達らしき人物が手をマイクのようにして差し出す。
『もちろん全力でのぞみます。そして勝ちます』
『そうですか、試合後はいつごろ部活に復帰できそうですか?』
『一年以内…… 半年。半年で復帰します。先輩、みんな! 待っててね』
 明るく手を振った。
 映像はそこでピタリととまった。
 部屋の中で、誰も口を開かなくなってしまった。
 神林が映像の方を見ながら、話しはじめた。
「遠山美樹先輩、手術をしたの」
 え? なに、どういうこと。
「手術を始めたんだけど、お医者さん、すぐにそれを中止してしまったの」
 ちょっと待って……
「ちょっとまって」
「開いてみて、初めてわかったらしいよ」
「日本では手術できる人いないんだって」
「うそ……」
 何を聞いているのか半分ぐらいしか理解出来ていないのに、あかねの頬には涙がこぼれていた。考えてもそれ以上言葉が出てこなかった。
 まさか、この部屋……
「みんなだったら、どうする」
「……」
 全く考えられない。
 そんな感じだった。
 麻子は涙をこぼしながらスクリーンを見つめていた。
 美々はあかねによりかかりながら、涙をぬぐうことなく泣いていた。
「ちょっと考えてみて……」
 スクリーンが消え、部屋が真っ暗になった。
 一瞬の間があって、また灯りがついた。
 さっきより暗い感じがする。
 同じ照明がついているはずなのに。
 あかねは、この部屋がもしかして遠山先輩のご自宅ではないかと思って必死に表札を思い出していた。
 部屋の番号以外、ここに入るまで部屋の持ち主の名前らしきものを一切目にしていない。それに、遠山先輩の家でお酒をだしてみたり、こんな動画を見せてみたり、先輩が入院しているのにこんなフカフカのラグを敷き詰めた部屋でごろごろしたりしないだろう。
 だがそれは全部、そういう想像でしかない。
 娘が病気だから、家族は三百六十五日、ずっとお通夜のような顔をしていなければならない理由はない。だいたい、お通夜の間だって、笑ったりするものだ。
 だからこの部屋が遠山先輩の家であっても変ではない。あかねはそんなことを考えていた。
「大学に入って、バスケを続けようと思った矢先の出来事らしいよ」
 そう言って、神林は部屋の真ん中の床をじっと見つめていた。しばらくして、言葉をつないだ。
「やれることはないか、って考えたんだ」
 寄りかかっていた美々が、あかねから体を離した。
「やれることって?」
「お金よ」
 町田が軽い調子でそう言った。
「たくさんお金がかかるんだって。アメリカでは順番を待っているんだって。いっぱいお金を出せば、順番変えてくれるんだって」



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