川西先生が言った。
 壁に背中をつけ、腕を組んで立っていた。
「俺が教えたんだ。最初、岩波は俺がWiFiの主だと思ってたみたいだ。実際、俺が居た時は体育館にあったらしいし、俺が学校を変わるとなくなったから、間違えるのも無理ない」
「べらべら喋ったんだ。あ、そう、あんたのセクハラの証拠もあるから、今の学校にだって居られねいようにすることは出来るんだから」
「全部そうやって力でねじ伏せることは出来ないのよ。笹崎先生がやってきたやりかたは、全部同じようにやり返すから」
「何か証拠でも持っているの?」
「そこにいる遠山先輩からいっぱいもらえるはずよ」
 笹崎が笑った。
「バカねぇ、川西先生をセクハラで訴えるかどうか、皆で悩んでいた時、どういうことが障害になったのか、覚えていないようね」
「もう誰もあなたの脅しに屈しないわ。このまま自体が酷くなるのが目に見えているもの」
 あかねは強く言い切った。
 言ってから、周りを見回した。
 神林や、山川、町田、そして麻子に香坂も、みんなうなずいた。
「そうですよね、先輩」
 遠山も口を真一文字に結び、強い決意を示していた。そしてうなずいた。
「もう笹崎先生の味方はいない。一人きりよ」
「どうして…… どうしてお金を集めることが悪いことなの…… ガキに勉強を教えて、バスケを教えて、自分の時間をすり減らして…… 得るものが少なすぎるのよ。やりたいことやって、好きなだけ稼いで、何が悪いっての」
 どうしてここまで汚いことを話せるのか、とあかねは思った。教師はもっと理想をもって教壇に立っているものと思っていた。
「まぁ、すくなくとも、遠山には大学で遊ぶ金を出していたんだから、共犯なのよ」
「……」
 遠山先輩の顔が少し引きつった。
「さあ、笹崎先生、警察に行きましょう」
 あかねは笹崎の手を引っ張って、立ち上がらせようとした。最初は抵抗していた笹崎も、あきらめたように立ち上がった。
「そのまま警察に話したところで、何言ってるのって感じよ。どうやって訴えていいのかも分からないガキが」
 あかねは何も答えず、玄関の方へ引っ張っていった。
 玄関へ抜ける廊下の先のドアが開いた。
「やめて!」
 声とともに、美沙が飛び出してきた。
 まさか、ここにいた、なんて。
「美沙……」
 父の言葉はウソだと思っていた。
 ウソだと思い込もうとしていた。
 美沙がここにいることで、あかねは現実を受け止めなければならなくなった。
「美沙、美沙も青葉で」
「離しなさいよ、先生の手を離して!」
 あかねは美沙の手に光るものを見つけた。
 ナイフだ。
 私を刺そうというの?
「どうして美沙が? なんでこんな先生の味方をするの?」
「こんな先生……そんなこと言わないで」
 ここまでは冷静だったはずなのに、頭では可能性があることを知っていたくせに。
 知らないままやり過ごせばどれだけ幸せだっただろうか、とあかねは思った。



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