ヒカリの視野の隅に映る人の行動を真琴が目で追っていたが、動きが奇妙だった。
 本当に壁ができているかのようだ。
『ヒカリ、ちょっと聞いていい?』
『黙って』
 この周りを避けさせる力は、誰が作っているのか。作っている方は、この壁だけに相当力を使っているに違いない。
「こっちから行くよ」
 パッと間合いが詰まると、軽く腕で牽制され、男の足が蹴り上げられた。
 ヒカリはずっと男のみぞおちあたりを中心にみていたが、真琴はまだ周りの人たちの様子を見ていた。中がすけて見えているのか、それとも見えていないのか気になっていたのだ。
 体を振って蹴りを避けると、ヒカリはそのまま倒れるように右によろけた。綺麗に避けたはずなのに体勢を直そうとしないなんて、真琴は直後に答えを見つけた。上がった足がそのまま真下へ振り下ろされていたのだ。
 真琴は引き続き周りの様子を観察した。
 こちらからは見えても、向こうからは中が見えていないようだった。
 ボク達が動いても、この壁は動かないのか?
 ヒカリはよろけたようにしてしゃがみ、ベストの男の足を、払うように蹴った。蹴りは当たる直前でかわされてしまった。
 空振りした足を戻しながら立つと、二人の位置は、最初にいた中心からズレていた。真琴は、壁も同じようにズレたのを確かめた。
 外から中の様子が見えないように、声も届かないだろう、真琴はそう感じた。
『ちょっと言わせて』
『黙れ!』
『ふん、なら勝手にするよ』
 真琴は強引に声を出した。
「お兄ちゃん、やさしいよね」
「?」
 ベストの男は不思議そうな顔をした。
「あなたは悪党じゃないでしょ?」
 不用意に近づいたヒカリを前蹴りしてきた。
 ヒカリは体を引いてそれを避ける。
「みての通り悪党だよ」
「いいえ、お兄ちゃんは悪党じゃない」
「そのお兄ちゃんってのやめろ」
 ヒカリが肘、膝の連続攻撃を仕掛けるが、男はスピードの乗らないところを抑えるようにして、止めてしまった。
「お兄ちゃん、……で、手加減しちまったじゃないか」
「それよりお兄ちゃん、この空間はなに? 誰が作っているの? 人が避けていくじゃない」
 ベストの男は、左右のパンチを連続して繰り出しながら、ヒカリへ突き進んできた。ヒカリはかわしながら後ろへ下がった。
 壁の空間も少しずつ後ろにズレていき、突いにフロアの壁に近づいた。
「俺は悪党だから、手加減なんかしないよ」
「うそ。お兄ちゃんはやさしいよ」
「じゃあ振り返ってみな? 俺はやさしいんだろ?」
 ヒカリが全く体を動かさなかった。
「ほら、この壁と駅ビルの壁に、おばあちゃんが挟まっているぞ。振り返って助けろよ」
「えっ?」
 真琴は何度も振り返るように体を動かそうとするが、ヒカリがそのすべてをキャンセルしていた。
「俺がこのまま、勢い良く進めば、後ろのおばあちゃんはどうなるんだろうな」
 真琴は足に力をいれた。
「このフィールドの壁と、現実の壁に挟まれて、砕けて死ぬかな」



ーーー
いつもありがとうございます。
お手間でなければクリックをお願いします→にほんブログ村 小説ブログ ライトノベル(小説)へ
にほんブログ村