薫の姿の真琴は、困って、もう一度、メラニーに言った。
「メラニーは何を見て、失敗した、と言っているの?」
「……メールです」
「ボク、メールしていないよ。見せて」
「?」
 メラニーは一瞬戸惑ったような表情をみせた。
 薫の姿の真琴は、つい言ってしまった口を手で塞いだ。
「とにかく見せて」
 メラニーはスマフォのロックを解除して、画面を切り替えると、薫の姿の真琴に渡した。
「『あんた! なんで車を先に出したの? 厳重注意ね』か……」
「厳重注意ですか……」
 真琴は、急に、メラニーから何か、熱いものを感じた。
 体調でも悪くて熱があるのか、何か怒りのようなものが発せられているのか。
 褐色の肌のメラニーの頬の色とかは分からなかったが、目が何となく、とろんとしている。
「私を厳重注意してください……」
 熱いものを感じる理由が分かった。
 距離を縮めて来ているのだ。ちょっと気圧される。
「厳、重、注、意、してください」
 こっちが襲われるような感じだ。
「ちょ、ちょっとまって、涼子がいるから」
 メラニーは少し冷静さを戻してくれた。
「……そうでした。では、後で『厳重注意』を」
 怒られたいのか? 厳重注意されたいのか? それ以外に受け取りようがない感じで迫ってきていた。そういう性癖の人もいるとは、知識では知っていたが。
 冷静を装って真琴は言った。
「とにかく、涼子と食事が先ね、ロズリーヌも頑張ってくれているし」
「はい」
 ロズリーヌも頑張ってくれているし……
 言っていることの端端に違和感をおぼえる。
 居間に戻ると、ロズリーヌが前菜を並べているところだった。本格的なようで、これは合理的だ、キッチンの作業が、時間さえかければよい状態になった場合、こうやって出来ているもの先に出せば、時間が稼げる。全部の食べ物を一度に並べるのは、それはそれで贅沢なのだ。
「先に食べていてください。お肉の料理もすぐお出しできます」
『先に食べてて、肉料理もそのうちあがるから』
 後者のセリフの方がロズリーヌらしかった。
 どう考えても前者のセリフはフランシーヌの発言なのだ。
 真琴は閃いた。
 ロズリーヌが部屋を出た後、真琴は涼子に言った。
「もしかして、ボクが薫の姿になったように、一つずつ世界の人の顔がずれてしまった、って推測は出来ない?」
 涼子は笑った。
「じゃあ、私は誰?」
「たまち、とか、上野さんとか」
「……本気で言ってんの?」
「だってロズリーヌがあんな丁寧な言葉遣いするの初めて聞いたし。メラニーだって」
「フランシーヌは認めるけど、メラニーはメラニーっぽいでしょ。なにより、私は変わってなかった」
 スマフォの手鏡アプリで自分の顔を確認した。
「これは何も間違っていない」
 涼子は少し間を置いて、
「ほら、魔法って、かける時、空気がキラキラ光るじゃない?」
「あ、そんなイメージあるよね」