「マミ、起きて」
 道に体を寝かせ、目を閉じているマミの意識を確認する。
「ヤバイ、救命救急処置をしないと……」
 ついこの前、学校で説明を受けたばかりだった。いきなり実践しなければならない、と思うと急にドキドキしはじめた。実際は、それだけでない、モヤモヤとした感情もある。だけど……
 だけど、躊躇っている時間はない。
「マミ、起きて」
 ダメだ、反応がない。
「誰か助けて!」
 もう登校時刻をかなり過ぎてしまっている。
 誰かが通りかかる可能性が下っているということだ…… このままじゃ、助けも期待できない。
 マミが呼吸をしているか確認し、背中にカバンを差し入れ、気道を確保した。
 口を開け、息を吹き込む。
 続けて、胸骨を圧迫する。
 回数を数えながら、繰り返し、繰り返し、圧迫を続ける。
「っはッ!」
 マミの呼吸が戻った。
 よかった……
 ホッとすると、いきなり、大きなエンジン音が聞こえてきた。ボロエンジンの音。さっき学校へ行ったバスが学校から戻ってきたのだ。
 道の真ん中に立って手を振り、『助けて』と叫んだ。
 ボロバスが、車体を軋ませながら停車した。
 運転手が足を引きずりながら、ゆっくりと歩いててくる。
「お嬢さん。早く救急車を呼びな。このバスじゃ助けられない」
 ガリガリとアスファルトを擦る音が聞こえる。右足がそんな調子で引きずっていて、まともに運転ができるのだろうか。
「どうした」
 背後から急に呼びかけられた。
 振り向くと、自分の倍はあるかと思う、大きな男が立っていた。
「……えっと。マミが、〈転送者〉にやられた」
 言いながらも、私は男の体格の大きさに怯んでしまった。
「どんな形だ」
 〈転送者〉と聞いた途端、男から強烈な威圧感を感じる。
 着ている服はシンプルなブラックスーツだったが、普通の会社員とか、そういう人間じゃないことが、自分にもわかる。ヤバい感じの暴力系な団体構成員かなにか。
 気迫で空気を変えるような類の人間。その筋の、と表現される人間のように思える。
「どんな形って?」
「〈転送者〉だ」
「E体だったんですが、途中でガス状になって、竜巻を作りました」
「この娘(こ)は」
「その竜巻に巻き込まれて」
 見かけによらず素早い動きでマミの呼吸を確かめると、男は言った。
「救急処置は?」
 私はうなずいた。
「おかげで助かったようだ、こっちの無線で救急車を呼ぶから、後は任せて」
「!」
 やばい、マミが連れていかれる。そんな、すごく嫌な予感がした。
「警察だよ」
 男が手帳を見せた。
 こちらの気持を読み取られた?
 いや、多分、怒ったような顔をしたせいだ。