それにしても、あの威圧感のようなものは、警察官という職業が出すものだったか。
「安心してくれた?」
「……わかりました。マミのこと、お願いします」
 その大きな警察官にマミと、自分の生徒手帳を見せると、男はスマフォで記録していた。
「君は学校へ行った方がいい」
「でも……」
「現場の記録をするとなると、君もずっと拘束されることになるけど」
 何か、獣のような、最初の印象とはまた違う、気迫というか、オーラが発せられている。そうとしか思いようのない、何か、と言うべきなのか。
 ずっと私の頭に描かれているイメージ。それは虎だ。
 なんだろう。
 直感的に伝わってくる。
「あの……」
「君がどうやってE体の〈転送者〉を追い払ったか…… いや、倒したかを、根掘り葉掘り聞いて良いのかな?」
 いや、聞かれたらまずい。
 何故私達が〈転送者〉と戦ったか、とか、私がどうやって倒したのか、とか……
 なんだろう、この人は何もかもお見通し、というのだろうか。
 スマフォを何か操作して近くの救急車を向かわせたらしい。もう救急車の音が近づいてきている。
「救急車もくるが、他の警察の車もくる。あのバスに乗って学校に行ったらどうかな?」
 ガリガリ…… と音が聞こえる。
「このボロバスは一度寮に戻るんだから。乗ったらもっと遅れるぞ。ここからなら、歩いて学校に行きな」
「おじいさん、あんた何者?」
 よく見ると、引きずっている足には、金属性のカバーがついている。それがガリガリと音を立ているのだ。
「あのボロバスの運転手だ。この件は誰も見てないんだから、この娘(こ)になにを聞いても何も分からんぞ」
「分かったよ、おじいさん」
 スーツの大男は私の方に向き直る。
「ほら、他の人の証言も取れた。この娘(こ)を救急車に引き渡したり、後の事は俺がやる。連絡するから、とにかく君は学校に行くんだ」
 私はうなずいて、学校へ向かって小走りに移動を始めた。
 マミに助かって欲しい。
 もう一度あの笑顔を見せて欲しい。
 一緒に病院に行けなくてゴメン……
 私は繰り返し繰り返し、何度も同じことを考えながら、学校についた。学校につくと、気づいてはいけないけれど、判ってしまったことがあった。
 マミはとてもじゃないが、戦えない。
 あの娘(こ)は普通の女の子だったんだ。
 今日『二人でいこう』と言っていたところへは、多分二度と行かないだろう。
 とても悲しい気持になっていた。
 考えているうちに学校についた。
 時間的に学校の門は閉まっている時間のはずだったが、開いていた。警備員も、とくに何も言わずに通してくれた。
 そのまま急いで教室に入ると、教室はまだざわざわと雑談をしている状況だった。
「公子」
 アヤコが呼びかけてきた。
「あれ、授業は?」
「何言ってるの、マミが救急車で運ばれたんでしょ?」
「う、うん。そうなの。〈転送者〉が出て」
 急に教室がしん、と静まった。
 自分に視線が向けられていた。
「……なら、授業がはじまる訳ないでしょ?」
 その小さい声は教室中に響いた。
 確かに重大事だ。
 しかし、それが伝わったとしても、つい二三分前のことのはずだ。ホームルームならもう少し早く始まっていてもおかしくない。