「何すんのよ! あたしだって怒るよ」
 立ち上がった涼子は、右手、左手と交互に真琴の肩を突いた。
 体重の軽い薫の姿をした真琴は、突かれる度によろよろと後ずさりした。
「ちょっと二人ともやめなさい」
 薫が立ち上がった。
「バトンはココにあるんだから」
 そう言って、二人に向かってニヤリ、と笑った。
「!」
 薫はバトンを真琴に向けると、
「エナジー」
 先端の宝石前方に光球が出来、あっという間に大きくなった。
「シュート!」
 真琴は涼子を突き飛ばして、反対に飛び退いた。
 光球は勢い良く家の壁に当たって、そのまま消えてしまった。
「なによ真琴、当たっても大したことないんじゃない?」
「そんなはずは」
「エナジーシュート!」
 真琴は光球に当たらないようにしながら、軌道を手で追った。
「熱っ!」
 当たらなかった光球は壁で消え、その壁は無傷だったが、相当な熱を持ったものであることが分かった。
「涼子、あれ熱いよ! 触ってないのにやけどしそうだよ!」
「つーか、薫じゃないなら、あんた誰よ!」
 涼子はバトンを持った薫にそう言った。
「そうだ、あんた誰!」
 真琴が立ち上がると、目の前に光球が飛び込んできた。避けきれず、抑えるように光球に向かって両手を伸ばした。
「あれ?」
 熱くすらなかった。
 家の壁面に当たったのと同じように、手のひらで消えたのだ。
「くっ……」
 薫の姿をした相手にとっても、光球に威力がないことが誤算だったことを悟り、すぐに反撃した。薫の姿の敵は、近づく真琴をバトンで殴りかかった。
 真琴は一瞬早く相手の懐に入り、バトンで叩かれることはなかった。そして足を絡めると、薫同士が絡まって、二人共床に倒れてしまった。
「誰、あなた誰なの?」
「私の格好をしたあなたこそ信じられない」
「ボクは最初からずっと真琴だよ」
 真琴は馬乗りになって、両手は各々の手で抑えていた。
「涼子、助けて……」
 涼子がゆっくりやってきてバトンを奪った。
「ちょっと、そうじゃなくて」
「どうするの?」
「逃げられないように縛るとか、手錠をするとかなんかないの?」
 涼子はバトンをソファーに置いて、キッチンの方の扉を開けた。
「何か縛るものはない?」
 ガタガタと何か大きな物音がすると、メラニーとロズリーヌがロープを持ってやってきた。
「薫様…… ロープをお持ちしました」
「こっちの薫を縛って」
「し、縛るのですか? (私を縛ってくれるのではないのですか)」
 真琴は少し呆れた。
「涼子、ちょっと手伝って」
 長いロープだったせいで、後ろでに縛った後、残りの分をソファーを縦に縛り付けた。これなら縛られたまま逃げようと思っても、ソファーが重くて逃げれないだろう。
 その時、玄関のチャイムが鳴った。
 音を聞くなり、メラニーは動揺したのか、直立不動になってしまった。
「誰か出ないと……」
「真琴が出て」
 涼子がきっぱりと言い切った。
「知らない人だった場合、薫のフリをするのよ」
 真琴はうなずいた。
 居間を出ると、玄関の鍵が開く音がした。
 玄関の鍵を開けれる人間は少ない。
「!」
 ちょうど玄関についた時、扉が開いた。
 監視カメラが捉えたとすれば、全く同じ顔が玄関の内外にいる映像になっていただろう。
 二人は同じタイミングで同じことを口にした。
「《誰?》」
 真琴は、ボロを出さない為にも、出方をみる為にもなにも受け答えずにじっとしていた。
「あ、あずさ……」
「!」
 相手は、扉を閉めるなり、靴のまま玄関にあがり、真琴の襟元を絞めてきた。