「違うっ! いったい誰なの?」
「く…… (苦しい)」
 真琴が抵抗しないせいか、薫の姿の女は少し手を緩めた。
「誰?」
「ボク…… だよ……」
 真琴は、足の力が抜け、反り返ってしまった。首を締めている手で、逆に倒れないように引っ張り上げられている。
「真琴なの?」
 微かに開いている目で、薫の姿をみつめながら、真琴はうなずいた。
「なんでこんな姿なの? ……もしかして。もしかして、私達、まだorigamiなの??」
「わ、から、ない」
 薫は背中を支えるようにして、真琴をそっと床に寝かせた。
「苦しかったよね。ごめんね」
 薫は急に居間の方を見やって、言った。
「メラニー! ロズリーヌ! 早く来て!」
 居間の扉が開きロズリーヌが出てきた。
「!」
 扉を開け放ったまま、ロズリーヌは静止していまった。
「どうしたの?」
 奥から、涼子がロズリーヌに声を掛けた。
「真琴? 真琴なの? そこにいるの?」
「はい?」
 確かにこれは真琴の声だ、と真琴は思った。
 小さい声で正面の女が言う。
「(じゃあ、これは一体だれ?)」
 ワンテンポ遅れて、奥から声がする。
「え? 何かいった?」
 ボクの声だ、違う、真琴の声をした、涼子の声だ。意識の中で一生懸命変換するが、誰なのかが段々整理できなくなってくる。
 さっき玄関から入ってきた、薫の姿の女は、ボクの体に馬乗りになった。そしておもむろに下腹部へ手を当て、ボクのあそこ触ってきた。
「あっ」
 ボクは、急にトイレに行かなければならない、ことを思い出した。溢れ出てしまう。痛みは薬でごまかしていたが、下着のあれを取り替えないと……
「ごめん、薫、ボク、トイレ」
 薫は何か変な表情で、ボクの言った意味を分かってくれないようだったが、なにか緊急であることは伝わったようで、ボクの上からどいてくれた。
 真琴は居間に戻ってバッグを掴むと、そのまま急いでトイレに入った。
 ボクの体は、鏡で見る限り『薫』だが、生理痛が続いているからボク自身なのだ、と考えた。だから、このパンツをおろした状態のこの下半身が果たして『薫』の形なのか、ボクの形なのか怪しかった。どうしてこんな部分を覚えているだろうか、毛の生え方とか? ベロっと開いてそんなところを覚えている人が何人いるというのだろう。
 ボクはそんなことを考えながら、下着のアレを取り替えた。
 居間に戻ると、真琴の姿の涼子と、正体不明の薫が一人、メラニー、とロズリーヌがいた。縛っていたはずのロープが床に落ちていた。
 そこにトイレから帰ってきた、薫の姿の真琴が加わった訳だ。
「真琴、話はだいたい聞いた」
 ボクは正体不明の薫は、おそらく薫本人だと思った。
「……疑わないで。私は薫よ」
 真琴の姿の涼子が付け加えるように言った。
「縛っていた薫は、逃げ出したわ」
「縛っていた薫は、ニセモノ、でいいのよね?」
 二人はうなずいた。
「ボクは真琴、君が涼子、薫、メラニー、ロズリーヌ?」
 ボクの言葉の感じを察したのか、薫が応えた。
「この二人も本人に間違いないわ」
 メラニーも、ロズリーヌも薫に頭を下げた。
「どうしよう、すごい時間も過ぎてしまった」
「昨日のことは置いておいて、ちゃんとこの事態を収拾しましょう。二人は食事は?」
「もう食べちゃったよ」
「ロズリーヌ、悪いけどもう一食作って頂戴」
「はい、薫様」
 ロズリーヌがキッチンに向かった。
 メラニーも一緒に出ていこうとしたが、薫が制した。
「メラニーに連絡があったというのを見せて」
 手渡されたスマフォを何か操作して見ていた。
「よく見ればわかるのに」
「何のこと?」
「表示名だけが私になってるのよ。本当に私のアドレスから送られたものとは違う」
「すみませんでした」