「気にしないでいいよ、メラニー。ボクだって毎回、そんなところまで注意しない」
 メラニーの場合は『厳重注意』で多分、それどころではなかったのだろう。内容がそれなりに変だったり、タイトルとかに違和感を感じればそこまで見てみるだろうが、今回はそういう部分が薫からくるものと思わせるだけの内容だった、ということだ。
「薫様……」
「いや、ボク、真琴だよ」
「えっ……」
 そうか、姿や声は薫そのものなのだ、ボクが何を言っても薫が言っているように思えてしまう。
「ややこしいから、早く戻さないと」
 涼子が言った。
「私だけでもバトンの力で戻してよ」
「自分でバトンに当たりに来たんじゃない」
「もう十分カオスだわ。もうイタズラはおしまい」
 真琴はバトンを手に取り、クルクルと回した。そしてスマフォから涼子の画像を探し出し、精神を集中させた。
「メタモルフォーゼ!」
 バトンの先から、涼子の方へキラキラと光り輝くものが流れでた。涼子の体をグルグルと周りながら、その姿が白く、明るく変わっていった。
 フラッシュのように目がくらんだかと思うと、元の涼子の姿に戻っていた。
「ふぅ……」
 真琴は緊張が解けて、ため息をついた。
 涼子はスマフォで自分の顔を見ると、真琴に言った。
「やれば出来るじゃん」
 そう、自分自身をボクの姿に変身させる予定だったのに、それを涼子が体で受けてしまうから、あんなことになっただけだ。
「薫様」
 ロズリーヌが食事を運んできた。
 薫は何やら必死にスマフォを操作しながら、脇に置かれていくスープやサラダ、一口大に切ってある肉を口に運んでいく。
 真琴は、まずは自分の姿に戻ろうと、涼子にスマフォを借りて自身の姿を強く思い描いた。
「メタモルフォーゼ」
 今度は自分自身に向けて魔法を掛けられた。
 周りが見えなくなる程、自分の体が明るく発光していくのが分かる。
 発光が終わると、少し目線が高くなったようだった。つまり、すくなくとも薫の背丈ではなくなったということだ。
 スマフォを取り出して顔を確認する。
「戻った!」
「真琴の姿に変身したにすぎないけどね」
 薫が釘をさした。
「バトンを格納しないと、変身が溶けた訳じゃないし」
「そうだね」
 真琴はさっきまでいた薫の姿をした不審者が、このバトンを狙っていたことを思い出した。
 これが体の外にある限り、奪われたりなくしたり、危険な状態が続く。早くこれを元あるべき場所に格納しないといけないのだ。
「何か、分かった?」
 薫はしばらく間をおいてから、言った。
「真琴は『聖なるバトンよ』と呼びかけることでバトンが取り出される位置が光り始め、そこからバトンを取り出すよね。そして、『マジックダイバー・エントリー』で変身する」
「うん、確かそう」
 何度かこの三人で夢の中に入った。
 変身もした。
 だが、変身を解く為の掛け声はなかった。
「ということで『マジックダイバー・ウェイアウト』と言って、変身を解いて『聖なるバトンよ、戻れ!』とかで良いんじゃないかしら?」
「よいんじゃないかしら? ってどいういう意味?」
 真琴は少し不安になった。
「呼びかけをして自分の位置を教えてくれるのだから、戻れ、と呼びかければ戻っていってくれるのではないかと。難しく考えすぎだったのでは?」
 フォークで肉と野菜を突き刺して、パクっと口にいれた。
 真琴は何と返していいかわからず、薫が食べるのを待っていた。
「……聖なるバトンよ。戻れ!」
 体のどこも光り始めなかった。
「ねぇ、どっか光ってる?」
 涼子と薫がこっちを指差した。バトンが暴れだしたように手を離れた。
「え? どこ?」
 二人が指差している場所が理解できないでいると、手を離れたバトンが真琴を目指して飛んできた。
「わっ!」
 バトンが宙を泳ぐように舞うと、真琴の口の中に飛び込んできた。
 硬いものだという先入観から『痛いっ』と言ってしまったが、実際は口の大きさに合わせて縮小してくれたし、重かったり硬かったりしなかった。それよりも表面が予想より滑らかで、しっとりしていたことが返って気持ち悪かった。