「白井公子(きみこ)いるか」
 そう言って、体育教師の東(あずま)が教室に入ってきた。
 私は黙って手を上げると、東が言った。
「一応、カバンももってこい」
 静かになった教室が、少しざわついた。
 クラスの連中の、冷たい視線を感じがら、私は先生の後ろに追いつくよう早足で歩いた。
「強い竜巻だったようだな」
「……はい」
「周囲の家のガラスが割れて、トタン屋根が吹き飛んでいる。お前は本当になんともないのか?」
「ええ。体勢を低くして、家の影を利用したので、幸い怪我もなく」
 校舎の端のエレベータに来ていた。
 生徒は乗ってはいけない、とされている。
 というか、呼び出しボタンを押しても反応しないから、生徒は使えないのだが。
 体育教師がエレベータの呼び出しボタンに、首からぶら下げていた身分証をかざした。
 扉が開くと、さきほどのブラックスーツの男がエレベータ内に体を曲げて立っていた。
「刑事さん……」
「エレベータが閉まりかけたので、慌てて乗ってしまったのですが…… どこにも降りれなくて困っていたんです」
「そうなんですよ、このエレベータは職員専用になってましてね。……ちょうど、白井を連れてきたところです」
 エレベータに乗れと手招きをした。
 私が片足を入れたところでブザーが鳴った。
 小さいエレベータとは言え、三人で、というか私が載っていないのだから二人で重量が超過するなんてことはありえない。
「ああ、私と荷物で三人分ぐらいはあるので…… 先生が載っていないと動かないですよね。私が降りますから」
 刑事が一歩あるくと、エレベータがグラグラと揺れ、またブザーが鳴った。
「……い、いえ私が歩いていきます」
「一階の応接室に」
 すっと頭を下げて、刑事は音もなくエレベータを抜け出た。
「?」
「一緒に階段でいこう」
 私が案内しながら、階段を一緒に降りた。
 刑事が階段を歩くと、踊り場についている灯りに頭がつきそうになる。
「マミは大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫。意識もはっきりした、と連絡があったよ」
「そうですか。やけに学校にくるのが早いので、何もしてくれなかったのか、と心配になりました」
「恐れなくても大丈夫」
 私はムカっとして刑事を睨みつけてしまった。
「(君が〈転送者〉を始末したんだろう?)」
 さっきまでの声とはまるで違う、小さく、細い声だった。この大きな体でどうやって発声しているのか、構造が知りたくなる。
「……」
「気にするな。そのことを聞きたいのではない。周辺の家が破損しているから、どれくらいの竜巻だったのか、詳しく話しを聞けと言われただけだ。〈鳥の巣〉側の監視カメラの映像を貰えば、簡単に分かることなのにな」
「!」
 しまった。
 まさかあの近辺にあったカメラに映っていたのだろうか。
 この情報の伝わり方の早さを考えると、通学路のカメラは学校側でモニタリングしているのかも知れない。
「大丈夫、こっちは〈鳥の巣〉が管轄じゃない。〈鳥の巣〉(あっち)はあっちで別の組織さ。本当だよ」
 なんだろう、この刑事は私が何者かを知っているように話してくる。
 ありえない。
「竜巻の状況と、家とかの破損状況をもう一度見てもらって、動きを説明してもらえばいいだけさ。怖がらなくていい」
 やっと一階に降りると、体育教師が応接室の前で待っていた。
「刑事さん、なんで急に降りたんです」
「いや、一番重い私がエレベータに乗ってるなんて悪い気がしたんで」
「白井、調書を取るのに協力してくれ」
「大体話しは聞いたので、白井さんを現場に連れて行っていいでしょうか」
「え?」
「校長先生には話しは通してあります」
「……そうですか。白井、どうだ?」
「ホームルームはいいんですか」
「話は通してあるそうだ」
 刑事の後をついていった。
 竜巻の現場にきていた車が置いてあり、私は案内されるまま、運転席とは反対の後部座席に座った。
 刑事が乗り込むなり、いきなり車が沈んだ。
「……あの失礼ですが体重って」
「二百」
「へ?」
 言うと同時に車が走りだした。