構内に入ると、校舎の端で担任教師の佐藤が出迎えていた。佐藤先生は、車を降りた私の横に立ち、刑事に頭を下げた。
「白井、お前も」
 背中を押され、頭を下げる。
 刑事も頭を下げた。
「捜査協力ありがとう」
 言い終わるや否や、刑事は踵を返して車へと向かう。私は急いで追いかけた。
「あっ、あの、すみません。刑事さんお名前聞いていいですか」
「鬼塚(おにつか)だ」
 右手を差し伸べてきたが、その大きい手に圧倒された。
「それと…… もう危ない真似はするな」
「なんのことですか?」
「こんなことを続けていると命がいくつあっても……」
 無意識に刑事を睨みつけていた。
「そうか。本当にやる気なんだな。助けが必要な時は、迷わず俺を呼べ」
「呼べっていったって」
「……そのうちわかる」
 鬼塚が乗り込むと、そのハイブリッド車は音もなく、すべるように走り去っていった。
「ほら、教室に戻れ。すぐにホームルームするぞ」
 余韻とか、そういうものはないのか……
 担任の佐藤の後について教室に戻ると、教室の中はざわざわしていた。
「あっ、廊下にいないと思ったら教室の中に入っていたのか…… まあいい。ここに立ってろ」
 担任の佐藤がそう言った生徒は、見かけぬ顔だった。
「あなたが転校生?」
「白井、そういうことを言うな」
 担任は、パンパン、と手を叩いて皆を座らせると、ホームルームを始めた。
 木更津マミが〈転送者〉に襲われたこと。だから他のみんなも、登下校時の〈転送者〉に注意をすること、という話があった。
 続けて、期末テストに向けての課題について。
 そこまで終わって、やっと先生の隣に立っていた転校生の話しになった。
「さっき、ちょっと話しに出たが、木更津がきてからこのクラスには転校生が入ってこなかった。が、今日は、久々にクラスの仲間に加わる生徒を紹介する」
「さつまりょうくんでぇ〜す」
 おどけた声で、男子が言ってしまった。
「ほら、黙って。自分で言って」
「さきほど紹介された佐津間(さつま)涼です。まだ説明してなかったけど、こういう字だから」
 転校生は教壇にある教師用のタブレットにさっと書き込む。
 すると、教室のサイドにあるディスプレイがパッと映って文字が表示された。
 転校生にしては、この学校の仕組みに慣れすぎているような気がする。
 おお、とかへぇ…… とか、そんな声が聞こえる。
 どこかで見たような気もする。
「何が得意なの?」
「部活とか入る?」
「ちょっとまて、質問コーナーじゃないぞ」
「転校生なんて珍しくない、って聞いてたんだが」
 佐津間がそう言った。
 担任の佐藤よりは大きいが、背の高さは男子としては平均的だ。もしかすると、このクラスだと小さい方になるかもしれない。
「もう一ヶ月も入っていないから、ちょっと新鮮なんだよ」
「だから静かに。佐津間、自己紹介つづけて」
「もういいよ」
「じゃー質問コーナーにしてよ先生」
「そうだ、佐藤、そうだ」
 騒ぎが止まらない。
 今回の転校生が女の子で、私の部屋にさらに相部屋になるならよかったのに。私の、私の為の、私だけの小さな女子ハーレム……
「うるさい、他のクラスは授業時間なんだぞ」
 急にマミの顔が浮かぶ。
 そうだったマミ…… マミ、大丈夫なのかな。
 もう一緒には戦えない、かな……
「質問だらけになったら収拾つかないから、一人質問はひとつ。代表して何人か選ぶからそいつらだけ質問な」
 佐藤は佐津間から教壇のタブレットを取り返し、ランダムで生徒を選んだ。
 急に生徒が一人立ち上がる。
「はい。あ、私は鈴木葵です。よろしくお願いします。質問…… わ…… 質問は……」
 なんでもいいから早く学校終わってマミに会いたい。
「好きな食べ物はなんですか?」
「小学生かよ」
「たこ焼き」
「佐津間も小学生かよ」
「いいだろ」