福原が立ち上がった。
「福原隆史です、よろしく」
 福原が頭を下げると、佐津間も軽く会釈した。
「質問は、サッカー部に入りませんか?」
「それ勧誘だろぉ」
「バスケこいよ」
「すみません、今はわかりません」
 と佐津間が言った。
「優柔不断だなぁ……」
 福原が座った。
 自分のタブレットがゆっくりフラッシュした。
 何も考えてなかった…… orz.
 どうしよう。
「は、はい。わたくしはしらいきみこです。よろしくお、おねがいします」
「なんだ、いきなり惚れたのか」
「あがりまくってんな」
「しつもんは、このこのがっこうのいんしょうを言ってください」
 クラスが沈黙してしまった。
 担任の佐藤がフォローした。
「この学校にきて、印象はどうだった?」
「別に」
「別にはないだろう。なんでもいいから言ってみろ」
「そうっすか…… 学校の印象っていうか、さっき質問したツインテールの子、声がババアですね」
 クラスが爆笑した。
 一人一人の笑う仕草が、スローモーションのように何度も自分に襲いかかってくる。
 そもそもクラスで目立つ方ではなかったのに。
 まさか、クラス全員に笑われるなんて……
 こんな注目の浴び方なんて全く想像もしてなかった。
 頭の中が真っ白になった。涙が溢れてきた。
 涙のせいか、景色が白く霞んいく。
 私、どうしたんだろう……

 気がつくと、ベッドで寝ていた。
 ふとんも違うし、天井も。何もかも違う。すくなくとも寮ではない。
 なんだろう、泣きすぎて気でも失ったんだろうか。情けない。たかが声のことを笑われただけなのに……
 体を起こすと、着ていたはずの制服ではなく、病衣を身につけている。間違いない。ここは病院なのだ。
 廊下側から視線を感じた。
「気がついた?」
 看護服を来た女性が、廊下に立っていた。私がベッドから降りて行こうとすると、押し戻すような手のしぐさをしながら、ゆっくりと近づいてきた。
 私は下しかけていた足を戻し、そのまま待った。
「具合はどう? 体温測って、血圧測るから、それまでちょっと待っててね」
 廊下にもう一人、人影をみつけると、自分の中のテンションが上がった。
「マミ!」
「ちょっと。今言ったでしょう? 体温測るのと、血圧測る必要があるから、じっとしてて。お友達だって待っててくれるから」
 女性はベッドの脇のカーテンを少し動かし、廊下側から見えないように隠した。
「安静にして数値が収まらないと、今日、入院になっちゃうよ」
「ごめんなさい」
 自分の鼓動を抑えられるのか、少し不安だった。これが数値に出てしまったら、マミと一緒に帰れない。
 看護服の女の人が、機器をガサガサと用意する時に、心の中からマミのことを消し去った。
 代わりに今日の転校生の一言が思い出された。
『あのツインテール、ババア声だな』
 そう言ったかどうかは確かでなかったが、確かにそんな、ババアと言っていた。それ自体も悔しいが、その後のクラスの反応が……
「ほら、ちょっと。腕だして」
「あ、ああ…… すみません」
 機器が装着され、腕に圧がかかる。
 音とともに圧が抜けていき、何かピカピカと光って数値が計測される。看護の方がタブレットで記録をとって、ニッコリと微笑む。
「うん、一応先生に確認とるけど、この数値なら多分大丈夫よ」
「よかった」
「気をつけてね。目の前が白くなったら貧血だから、ばったり倒れるまで我慢しないで、はやく座ったり、横にしてよ。貧血そのものより、倒れて頭を打ったりする方が危険なんだから」
「貧血? 私貧血になったんですか」
「血が足りない、という数値ではないのよね。脳貧血なんだと思うよ」
「……」
「なんかショックなことが起きると、そういうことになったりするわね。とにかく気をつけてね」
 クラス中から笑われたせいだ、それしかない。
 ちょっと注目を集めてしまうと気分が悪くなる。そんなことに負けてしまったんだ。
 弱い自分……