「制服はそこに畳んであるから、着替えたら病衣はこっちのカゴにいれといて」
「わかりました」
「ほら、いいわよ」
 看護の人がカーテンを開くと、マミが病室へ入ってきた。
「びっくりしたよ、公子、どうしたの」
「うん…… 貧血だって」
「急に?」
「詳しいことは寮に戻ったら話すね」
「一緒に帰ろ」
 カーテンをもう一度戻し、私は制服に着替えた。先生がやってきて軽く状態を確認されて、そのまま手続きをした。両親へは連絡をしてくれているそうだ。
 スマフォに両親から連絡があったが『来なくても大丈夫』と返信した。来て、と言ったところで両親には何か理由があって、どのみち来れないに決まっている。
 マミと二人で近くの駅まで行き、百葉への新交通に乗った。無人運転の二両編成。途中駅までは多くの人が乗っていたが、百葉に近くなるにつれ、多くの人が下り、乗り込む人が減っていった。
 後二駅過ぎれば次は百葉、というところで車内は私とマミだけになってしまった。
「あれ、本当に私達だけになっちゃったね」
「まあ、この先は全部駅も無人だし」
「座り放題、寝放題だね」
 カバンを枕にして、長い椅子に横になってみせた。
「私もやってみよう」
 マミも向かいの椅子で同じような格好になった。
「なんか変な感じ」
「そうだね」
 某システムダウンが起こってから、それを中心とした街や村は避難地域に指定された。そこに住む人たちの意思にかかわらず、強制的に退去させられ、避難したのだ。
 それに伴い、他の人も怖くなって移動を始めた。自主避難と呼ばれたが、それもしかたがないことだった。
 避難地域の近くでは、民間のサービスはもちろん、行政サービスですら受けられなくなり、治安も悪化していったからだ。
 だから今〈鳥の巣〉へ近づけば近づく程、人がいなくなる。そういう構造になっていた。
「〈転送者〉って今日初めて見た」
「私もだよ」
 クラスの仲間から目撃談は聞いたことがある。
 出現を予測出来る人もいるようだ。
 そういう人のネットワークを使って、スマフォに知らせるような仕組みを作っている人もいるらしい。まぁ、それが正確ならば、私もつかいたい。
「もっと弱いんだと思ってた」
「確かに」
 〈転送者〉で死人がでたとは聞かない。
 必ず逃げてこれていることから推測して、そんなに強い生物ではないのだと考えても不思議はない。
「マミは怖かった?」
「……うん」
 マミの表情をみた。
 これは結構深刻な状況だ。
 やっぱりマミには、〈転送者〉を打ち倒す適正がない。
「あ、そうだ。今なら話せない?」
 マミが体を起こした。
「なんだっけ?」
 私も体を起こした。
「貧血になった理由(わけ)」
「そうだね……」
 誰が乗ってくる訳でもないし。
 監視カメラはあるかもしれないけど、それは寮だって同じ。
「!」
 急にブザーがなった。
「緊急停止します 緊急停止します」
 急ブレーキのせいで、マミは椅子の上で倒れてしまった。
 立ち上がって、手すりに捕まる。
 進行方向のガラスを凝視するが、何も見えない。
「何、何だっていうの?」
「見えない。別に何もないけど」
 そう言っているうちに、列車は完全に停止した。
「なんだろう…… 私、前の車両にいってみる」
 マミは椅子に座りながら震えている。
 やはり朝の出来事がショックだったのだ。
 もしかしたらこれも〈転送者〉の仕業、と考えてしまうのだろう。
 しかたないことだ。
 正直言えば、私だって怖い。
「行かないで」
「えっ……」
 マミに腕を握られた。
 二つの胸の膨らみに、挟まれた腕の感触が、私によこしまな考えをもたらす。