『私と戦いとどっちを取るの』
 振り向くと、マミの胸元は大きく開いていて、白い肌の膨らみが丸見えになっている。
『いかきゃ誰が倒すの、警察は現場検証しかしてくれない』
『そんなの言い訳よ、私のことが嫌いになったのね……』
 マミの美しい瞳に、涙が溜まっていく。
『違うよ、大好きだよマミ』
『じゃあ、キスして』
 目を閉じてキスを求めてくる。
 どうしよう……
 ここでやらないと一生マミとキスできない気がする。
『じゃ、じゃあ、いたただきます』

『何かありましたか?』
 男の声だった。
『何かありましたか?』
 続けて同じことを聞いてくる。
「公子、何してるのよ」
「え?」
 目を開けてはいたが、現実が見えていなかった。私は声のする先を探した。
「公子、これって、どこに向かって返事すればいいのかな?」
 マミがそう言った。
「あれじゃない?」
 車両のつなぎ部分の上部に、小さいディスプレイがついていて、駅員の顔が映っていた。
『何かありましたか?』
「わからないです。とにかく、急に停止しました」
『こちらには、車両の緊急通報ボタンが押されたと表示されてますが』
「緊急通報ボタン??」
 マミの方を向くがマミも同じ気持ちだったようで首を振った。
「押してません」
『車両先頭部にある、1番の緊急通報ボタン……』
 新交通の職員が何かを確認するような様子していたと思うと、突然、映像が途切れた。
 同時に、ガチャン、と大きな音がした。
 鍵が開いた音。
「キミコ! あれ!」
 先頭車両の先頭部分のドアが開いた。
 そこから、真っ黒な首無しーーE体が出てきた。
 ドアを過ぎた部分から大きくなっていった。それはまるで、風船のように膨らんでくる。もうこのドアから戻れる大きさではなっていた。
「いぃやぁーーーー!」
 耳が潰れるかと思うほどの絶叫に目をつぶった。目をつぶっても音は遮れないというのに、何故こんな反応をするのか、自分の行動が不思議だった。
「マミ、落ち着いて。とにかく後ろに行こう」
 震えてしまって、歩けそうにないマミの背中を押しながら、〈転送者〉と反対の方向へ進む。
 さっきE体が入ってきたのと同じドアが見える。
 違う…… あそこは開かない。
 普通の乗車用ドアを緊急レバーで開放して、そこから逃さないと……
「マミ、電車を降りよう」
 赤い印がしてある箇所の、開放レバーを、説明の通りに操作する。これでドアが開閉するはず。
「開かない?」
 もう一度、取っ手に力を込めて、引く。
「どうして!」
 開放用の赤い装置をもう一度書いてある通りに順番に動かす。きっちりと手応えがある。これで開かないなんて…… 車両メーカーを恨むべきなのか、鉄道会社の整備員を恨むべきなのか……
「開いて!」
 E体がゆっくりと近づいてくる。
 私達を獲物、と認識している。
 しかし、E体は、車両の継ぎ目で引っかかって体を曲げたり、向きを変えたりしている。
「マミ、とりあえずそこに隠れて」
 私は運転席横のコの字になったスペースにマミを連れて行った。
「けど、き、公子はどうするの」
 そう言うマミは足が震えて、まともに立ち上がれそうになかった。
「戦う」
「危ないよ! 今度こそ死んじゃうよ、ね、一緒に隠れて」
 確かに…… 少し、いやな予感がした。
「二人隠れることができるほど広くないから。私が囮になる。多分、戦っていれば、窓なり扉なり、どこか開くから、そこから逃げて、約束だよ」
 マミは小さくうなずいた。
 その仕草があまりに可愛くて、頭にキスをした。
「じゃ、行ってくる」
 とにかく、時間を稼ぐことと、脱出ルートをつくることが肝心だ。