E体はまだ車両の継ぎ目を通れなくてもがいていた。
 まずは、こちらの車両にこさせなければ一つ目の目標に近づく。
 E体はこっち側の車両に手を掛け、無理やり体を抜こうとしている。私はその〈転送者〉の腕を蹴り上げた。
 そして、前方車両へ戻す為、体ごとぶつかった。
 体をぶつける度、〈転送者〉の赤黒い、目のようなものが、暗く光る。
 何度目かに体をぶつけようとすると、今度はE体の腕のようなものを突き出して妨害した。
『あぶない』私は気持のなかで叫び、体当たりを一度諦め、E体のその腕を、動かない方向にキメて、全身のちからを込めることにした。
 このまま腕を折ってやる。
 再び、継ぎ目の奥にある、赤い部分が暗く光った。
 私の体ごと、ぐるっと腕をひねったかと思うと、そのまま前の車両に引きずり込まれた。
 反対の腕が私の顔をめがけて飛んでくる。
『まずい!』
 横にかわした、と思った瞬間、腕は私の腹に打ち込まれていた。
 フェイントかますのかよ。
「ゔっ……」
 体が『く』の字に曲がる。
 苦痛と恐怖が、頭を支配していく。
『……迷わず俺を呼べ』
 馬鹿でかい刑事が言った言葉が蘇ってくる。
 どうやってあんたを呼べばいいんだよ。叫べとでもいうのか。
 呼んで欲しかったら、そこまで教えておいてくれ。
「(はっ)」
 息を吐きながら、無理やり体を動かす。
 すれすれで〈転送者〉が振り回す腕を避けながら、窓やドアが壊れることを願った。
 しかしE体の攻撃は正確で、振り回し過ぎて窓ガラスやドアを打ち壊すような真似はしない。
 どれだけ窓の寸前で避けても、窓やドアを叩く前に止めてしまうし、ギリギリのところを振りぬいていく。
 いや…… ドアを叩いたとしても壊れないか…… ドアが壊れる程の力だったら、私のお腹は破裂していたに違いない。
 止まって反転すると動きをよんだはずなのに、〈転送者〉はそのままの方向にグルリと回転した。
「しまった!」
 人間なら裏拳に相当するものをもろに食らってしまった。
 床に叩きつけられ、前後左右がわからなくなる。
 車両の継ぎ目にある手すりにしがみついて立ち上がる。
「ひゅ〜っ」
 〈転送者〉が空気を押し出したような音をたてた。
 気味の悪い音。
 もしかすると、コレが奴の声なのかもしれない。
「公子! 大丈夫?」
「……だいじょうぶ」
 自分の力でこの敵を倒さないと。
「ナックルダスター、つかう?」
 急に〈転送者〉が走りだし、体当たりしてくる。
 挟まれないよう、慌てて手すりから手を離し、後部車両に逃げる。
 〈転送者〉は大きな音をたて、継ぎ目の部分に体をぶつける。
 やはり体が大きすぎて、通過出来ないのだ。
「ふぅ……」
「公子、使う?」
 ナックルダスターを投げてよこそうかというマミの後ろに、奇妙な影が。
「……マミ、逃げて!」
 先頭車両の〈転送者〉が連結部分でハマっている間に、別の〈転送者〉が後部車両のドアから転送が始まったようだ。マミもすぐに異変に気付く。
「いやぁ〜〜 助けて、助けてキミコ!」
 やばい……
「とにかく立ち上がって」
「立てな……」
 そこにいたらマミに見られてしまう。
 それだけは避けたかった。
『……迷わず俺を呼べ』頭の中の鬼塚刑事が言う。
「だからどうやって……」
 私は天を仰いだ。
「助けて……」
 完全に転送が終わったらアウトだ。
 いや、多分、体力的に二体は倒せない。どうする。
「マミ、目を閉じて、耳を塞いで!」
「なんで」
「いいから、お願い!」
「分かった」
 私は全力で最後部のドアへ跳んだ。