美容室や理容室にいけば、そんなことは誰でもしてもらえるのだが、小さいころ、母が自分にそう言ったことを思い出したのだった。
「大げさだね」
 シャンプーを流してもらうと、ボクも洗ってあげると持ちかけた。
「やってもらえば、王女様な気分かどうか分かると思うよ」
「そお?」
 涼子を寄りかからせ、膝のうえに頭をのせた。
 母がやってくれたように、指の腹を丁寧に頭皮を洗う。
 洗髪に関しては、未だにこの指で洗うよりいいブラシや道具はないようなのだ。
「どうですかお客様」
「気持ちいいね。そういえば、真琴は美容師になりたいんだっけ?」
「そうなんだ。だけど、母がまずは大学行けって」
「大学は行っといた方がいいかもね。けど、半端な学校行くと、返って損な気もするなぁ」
 そうなんだ。ボクのレベルでは大して良い学校に行けるわけではない。しかし母はこう言う。『あせって自分の将来を狭めている気がしてならないの。だから大学という猶予の期間があっていいんじゃないのかしら。』
 見ていると、涼子は眠そうに目を閉じた。
「涼子、寝ちゃダメよ」
「気持ちいいんだもん……」
 これ以上やっていると涼子が寝てしまう。
 ボクはシャワーでシャンプーを流し始めた。
 頭皮と指の間に湯を為、軽くすすいでは流す。
 少量のリンスを手に取り、刷り込むようにしてから、再びシャワーをかけて流していく。
 やばい、本当に寝息をたてている。
「涼子、終わったよ、ねぇ、起きて」
「あっ、え、寝てた?」
「うん。かなり寝てた」
 二人はお風呂を上がって、タオルで互いの体を拭き合った。
 頭を拭いていると、涼子が言った。
「真琴は薫に復讐する気、ある?」
「さっきの、メラニーのこと」
「信じられない? そう思うのは勝手だけど」
「復讐って言ったって」
 涼子は鼻に指を当てた。
「私。私とエッチなことしたら、復讐にならない? 私は真琴の恋人、じゃなくていいよ。今日だけでもいい」
 母に、母に聞こえてしまう。
「(しっ…… もっと小さい声で言ってよ)」
「どう? どのみち、真琴のベッドで寝るから、そこで答えを聞かせて」
 なんて女(ひと)だ。
 ボクは混乱してきた。
 薫に知れて初めて復讐になる。
 けれど、こんなことをどうやって知らせるというのだ。昨日、涼子を部屋に泊めたよ、と言っても何もなかったでしょ、という顔をされて終わりだ。昨日、涼子のエッチなことをした、とでも話すのだろうか。もし薫がそんな言い方をしたら、別れ話としか思えない。
 こんなことをして復讐として成り立つのだろうか。
 涼子は自分の部屋着を着て『ぴったり』とか『似合う?』とかはしゃいでいた。
 居間を通る時に母が、
「涼子ちゃん家(うち)の娘(こ)にならない」
 と言い、涼子は
「毎日真琴とベッドをともにに出来ますね」
 と返した。
「何んだかわからないけど、楽しい娘(こ)ね」
 ボクは軽いめまいがした。

 ベッドに入ると、涼子が本気なのが分かった。
「(ねぇ、本当にどうするのか返事してよ。私はもうその気でいるの)」
「(その気ってどういうこと?)」
「(そんなこと言わせないでよ)」
 ボクの考えは全くまとまっていない。
 確かに薫はボクに内緒で、メラニーとかと関係を持っているようだ。それは、涼子にいわれるまで、気づきたくなかったが、薫の家でなんとなく感じた事だった。