と、同時に、全力で声を張り上げた。
 マミに音が聞こえないように、ずっと声を出し続けた。
 きっとこれは、ガラガラで、ババアみたいな声なんだろう。興奮したなかで、ふと冷静な自分がそう言った。
 転送されかけたE体の半身に、繰り出した蹴りが突き刺さった。
 マミは耳を抑えて丸くなっている。
 そのまま、そのままでいて……
 さらに強く右足を突き刺す。
 息を継ぎながら、声を出し続ける。
 すると、E体の目のような場所の光が弱まった。
「ふぁ〜」
 通学路に出た〈転送者〉を倒した時に聞いた、空気が抜けるような音がした。
 E体の腕がダラリとさがり、目の光りが消える。
 足先に合った手応えがなくなった。
 慌てて足を引きぬく。
 ドアが閉まり、時間が逆に動いていくかのようにE体が消え去った。
 パタン。
 やった。とりあえず、勝った。
「マミ、マミ! 大丈夫?」
 私はマミの肩に手を置いて、そう言った。
「!」
 目を閉じて震えていたマミがようやく目を開いて、耳から手を離した。
「〈転送者〉は?」
「大丈夫、ドアに押し込んだら戻って行った」
 私はウソをついた。
「ありがとう」
 マミは立ち上がるなり、抱きついてきた。
 救えた、と思う安堵に、見られなかった、という気持ちが加わって、まだ車両の継ぎ目にいる〈転送者〉のことを忘れてしまいそうになる。
 ぎゅっと、抱き返すと更に体が密着して、気持ちが良かった。
「!」
「どうしたの?」
「ドアが……」
 マミが見ている方向を振り向くと、乗車口がゆっくりと開き始めていた。
「まさか、こっちからも……」
 マミをまた同じ後部のコの字のスペースに押し戻すと、乗車口の前で構えた。
 もう、同じ手は通じない。
 こんどこそ見られてしまう。
 その時、ガツン、と大きな音がした。
 音は先頭車両からで間違いなく、その音の意味は間違いなく嫌なものだった。
「ふ〜〜」
 横たわったE体が、両手をついて立ち上がってくるところだった。もちろん、そこは後部車両の床だった。
「まずい」
 今度は正面の乗車口が音を立てて開いた。
「!」
「呼び方が下手だな」
「……」
 そこには鬼塚刑事の姿があった。
「お前は隠れて、目をつぶっていろ」
 いそいでマミのいるところに逃げ込み、マミのことを抱きしめた。
「それでいい」
 E体が滑るように走りだすと、鬼塚はその巨体を軽々と跳躍させて乗り込んできた。
 と、同時に刑事はE体を蹴った。
 蹴られたE体が乗車口にぶつかったせいか、鬼塚が乗り込んだせいか、車両は大きく揺れる。
「うらぁ!」
 刑事が叫ぶと、強烈なオーラが車両を包み込んだ。
 鼻も口もないE体が、怯んだように見える。
 残像すら見えないような手と足が、流れるようにE体に注がれた。
 すぐに、大きな破裂音。
 私が倒した時のような、あの抜けるような音ではなく、爆発したような、突然臨界を迎えたような、激しい音だった。
 影が実体化したようなものがヒラヒラと舞い、床に撒かれた。
 鬼塚の圧倒的な強さだけが印象に残ってしまった。

 マミと二人で車の後部座席に座り、私はぼんやりと外を見ていた。
 マミは私の肩に頭をのせて、すやすやと眠っている。綺麗な黒い髪に、赤黒でラインの入ったカチューシャがあることに気付いた。これ、朝はしていなかったような…… けれど、今日ずっとマミと一緒にいたわけではない。どこか途中でつけたのかもしれない。
 マミの髪を撫でながら、こんな安らかな時間が永遠に続いたらいいのに、と思って、次の瞬間には否定した。いやいや、どうせ永遠に続くならもっとエロい関係になってから、そんな甘い時間が延々と続いて欲しい、と思い直した。