マミが頭をこちらに倒しているせいで、襟元から胸がチラっと見えた。綺麗な肌がやわらかそうなカーブを描いている。マミが寝ている無防備さも手伝って、のぞき見てしまう自分への罪悪感がひどかった。けれど、そこから視線を外すことができないでいた。
 〈転送者〉が破壊された後も、鬼塚は私達に何も質問しなかった。そのまま高架下に停めてあった、刑事の車に私達を乗せてくれただけだ。
 私は、さっき刑事に言われたことを思い出した。
『今、〈転送者〉がモノ、なのか動物なのかもわかっていない。所有者も分かっていない。都心であればともかく、こんな田舎じゃ、正当防衛を証明するのも難しい』
 つまり、〈転送者〉を倒すことは罪になってしまうというのだ。
『モノでも動物でも、まずは器物破損の罪になるだろう、と言われている。所有者のあるものを壊してしまったような場合に相当する。道路を走っている、あるいは停車している車を壊した、傷つけたのと同じ罪だ』
 猪や熊を撃つような行為にならないのかとも聞いたが、だめだった。
『現状はそうはいかない。そもそも害獣として認めようににもあまりに情報が少ない』
 法整備なんかをまっていたら、国が滅ぶのではないか、と私は言ったが『それは俺らが考えることじゃない』と一蹴されてしまった。
 それにしても、いままで〈転送者〉に出会ったことがない私が、同じ日に二度、合計で三体に遭遇することになるなんて。何かが変わり始めているのだろうか。
 再び、ぼんやりと外の光景を眺めていると、鬼塚刑事が車に戻ってきた。
「ほら、制服の上着忘れてた」
 鬼塚は運転席に乗り込み、窮屈そうにからだを捻ると、制服を渡された。
「寮まで送ってく」
 そう言ってエンジンをかけた。
「ありがとうございます。そうだ…… 暑くて上着脱いだんでした。すみません。忘れてました」
 いや、そんな理由で脱いだんじゃない。
 あの時だ。マミが隠れているそばのドアから、転送が始まった時。
「とにかく気をつけるんだ。上着を忘れたりすることにも注意が必要だが、その前に、お前は好戦的過ぎる」
「そんなことありません」
「〈転送者〉は〈転送者〉を呼ぶ性質がある。知らなかったのか?」
 鬼塚はシートベルトをしめて、車のエンジンをかけた。
「電車のドアというドアから出てくる可能性があったんですか?」
「可能性はあった。友達がいたのだから、まず逃げることを考えてくれ」
「最初、逃げようと思いました。けど乗車口は開かなくて」
「……」
「鬼塚さんほど力があれば、開いたかもしれ」
「誰かが」
 鬼塚はいいかけて、話すのを止めた。
 こっちは話しの途中で止めて、話し出しを待っていたのに、刑事は黙々と運転を続けるだけで、何も言葉をつなげない。
「どうしたんですか?」
「……いや」
 再びだまってしまった。
 私もぼんやりと外の風景をみるだけだった。
 あたりが完全に闇になった頃、寮の灯りが見えてきた。
 人の住まない地域に近いせいで、建物があっても灯りがつくのは寮ぐらいしかない。
 寮の警備の人に言って車の中に回してもらった。
 その間に私はマミを起こした。
 鬼塚刑事が車を止めて、車を降りた。私とマミも車を降りた。
「じゃあ、気をつけて」
「ありがとうございました」
 私とマミは頭を下げて、刑事が帰るのをまっていた。
「白井さん、ちょっと」
 刑事は後ろに回りこんできた。
 両肩を抑えられてしまった。
「なんですか、なにするんですか?」
 鬼塚はしばらく背中を見つめている。
 まさか…… あれが見えてる?
「やめてください!」
「あ、ごめんごめん。セクハラとかで訴えないでくれよな」
 私は慌てて手に持っていた上着を羽織った。
 鬼塚は何もなかったかのように笑顔で言った。
「じゃあ、二人共気をつけて」
 車は寮を出ていった。
「さあ、戻ろう」
「公子、最後の、何だったの?」
「わかんない、ただのエロ刑事が女子高生の体を見たかった、ってことじゃない?」
 そういうことにさせておいてください。鬼塚刑事、と心の中で謝った。
「そんなことより、今日はいろいろありすぎて整理がつかないよ」
「そうだね〜 本当に怖いことばっかりだった」
「病院にはマミのご両親きたの?」
 家の親は『来て』と連絡しても来なかったろう。