「連絡はしたけどね。多分こないから」
「そうなんだ。私の両親も来ないから連絡しなかった…… あ、いや、ごめん連絡した。来なくていいからって」
「一緒だね」
「うん」
 たぶん、こんな某システムダウン発生場所に近い、しかも全寮制の学校へ、娘を入れてしまう親には何か共通点があるのだろう。自分の子供に干渉したくないとか、独立心を育む為に放任主義であるとか、どんな考えかは良く分からないけれど。
 私達が寮の食堂で食事をしていると、同じクラスの娘(こ)と何人か合った。今日、クラスで私が倒れたことには触れなかった。別に、触れられたらそこでマミに話してしまおう、と思っていた。
 食事の間には、話すきっかけがなかった。
 寮はお風呂の時間が区切られており、部屋割で時間がシフトしていた。そうやって一定時間に集中しないようにコントロールされていた。
 それがイヤな生徒は、学校にいるうちにシャワーを使ってしまう。部活とかの生徒はそっちで済ませてしまう人も多いようだ。
 私もマミも部活に入っていない為に、学校のシャワーを使うことは滅多になかった。大きくてゆっくりつかれるという理由で、私は寮の風呂の方が好きだった。
 部屋にぶら下がっているお風呂のシフト表を眺めながら、私はマミに言った。
「そろそろお風呂の時間だね」
 マミはベッドの上に腰掛け、自身の足先をみつめていた。
「……うん。今日は時間帯の終わりの方ではいろうか」
 いつも時間の幅で、早い時刻ばかりをみていたから、終わり側の時間を気にしてことがなかった。表を改めてみてみると、今回、私達の部屋は最後の時間帯だった。それの終わりの方の時間帯ということは、本当に最後の最後ということだ。
 私はシフト表を元に戻した。
「マミがそれでいいなら」
「ありがとう」
 このタイミングで話すべきか、と私は思った。
「今日、私が教室で倒れた理由(わけ)、話してなかったよね」
「……」
 マミが聞きたいのか、拒否しているのかが分からなかった。
「ちょっと、こっちにきて」
 マミが手を置いた、ベッドに腰掛けた。
「一度、話し変えてもいい?」
 私はうなずいた。
「今日やろうとしていたこと、公子はおぼえているよね?」
 マミと計画していたことだった。
 あの壁の向こうへ行く計画。
 私はうなずいた。
「あれ、さ」
 また、マミは自身の足先を見ていた。
 伸ばしたり、曲げたり、重ねたりしながら、時間が過ぎた。
「あれのことだけど、怖くなっちゃった」
 急にこっちを向いて、手を合わせた。
「本当にゴメン。無期限延期ってことで」
 たぶん朝の〈転送者〉の件だ。
 実際、私もマミはもっとやれる、と思っていた。マミにも能力があると思っていた。
 しかし実際は違った。
 そうだとすると、無理に〈鳥の巣〉の中に連れて行くことは出来ない。某システムダウンの中心部で〈鳥の巣〉の内側には〈転送者〉がもっと高確率で発生する、と考えられるからだ。
 私はまた一人になったような気がして、悲しくなってきた。
 どうしてこう一日に何度も泣いてしまうのだろう。涙もろくなってしまったのかな……
「公子、ごめん。けど、私。私には無理だよ」
「うん。こっちこそ、ごめん。そうだよね、怖いよね、いいよ、大丈夫」
 私、大丈夫だって言った?
 違うよ。大丈夫じゃない。
 めちゃくちゃ寂しいのに。
「公子」
 マミが肩を抱いてくれた。
 私はそのまま抱きついてしまった。
 ぎゅっとされると、悲しみが紛れるだろうか。
 抱きしめられると、寂しさが消えるだろうか。
 いつのまにか声をだして泣いていた。
 朝は〈鳥の巣〉に入ることを、半分忘れかけていたのに。元々、一人でも入る気でいたのに、断られると、涙がでてしまう。
「公子?」
 ドアが叩かれた。
「公子いる?」
「いるけど、ちょっとまって」
 マミが答えた。