なんか違うのだ。
 全く別の理由だったと思う。何かちゃんと答えになっていないけれど、昨日したことはきっと間違えではなかった。そう思えるはずだ。
『真琴、ボク明日の為に練習したいんだけど』
 後ろにヒカリがいる気配がした。
 いつの間にか、頭痛が始まっていた。
『いいよ。公園とからなら走ったり出来ると思うよ』
 真琴は食事を終えると、片付けながら母に言った。
「今日は明日の体育祭の為に、練習しにいく」
「えっ、どこに? 学校開いてるの?」
「学校は本番ように色々支度してるから、公園にいくよ」
「そう」
 母も食事を片付け、仕事に出かける準備をしていた。明日の体育祭は仕事を休むから、土曜日に休みたい人と交代したらしい。
 真琴は運動出来る格好に着替え、公園に行く準備をしていると、母が言った。
「じゃあ、行ってきます。練習もいいけど、明日が本番なんだから、ホドホドにするのよ」
「うん。いってらっしゃい」
 母が戸口から出ていく音がした。
 真琴はバッグからくまのぬいぐるみを出して、充電器に刺した。
「ごめんね。おじいちゃんの充電忘れてた」
 くまのぬいぐるみは、ピクリとも動かなかった。しかたない、これは置いていくしかない。
『ヒカリ、ヒカリ?』
『いるよ。何?』
 また背後にヒカリの気配だけがある。
『公園の場所、分かるよね?』
『うん』
『ここから交代してもらっていい?』
 ボクは考えることに疲れていた。
 確かに昨日、涼子と夜遅くまで起きていたせいもあるかも知れない。けれど、行為自体の疲れではない、何か心が何か重いものを持ち上げ続けているような、そんな気がしていた。
 起きていればずっと薫と涼子のことを考えてしまう。
『ボクに意識を取られるのはイヤじゃないの? 怖くはないの?』
『うん。疲れちゃった。だからボクは寝るよ。昨日のヒカリみたいに』
『じゃあ、明日の練習を始めさせてもらうよ』
 急に感覚が遮断されて何もない、上下の感覚さえなくなった。そういえば、めまいもそんな感覚だった。
 何もかもが溶けていくように思考が成り立たなくなって、ボクは眠りについた。

 ボクはヒカリに起こされた。
 というか、体に起こされた。
『真琴、お腹が減った』
 すこしずつ感覚が戻ってくる。確かにお腹が減っている。公園の時計をみると、もう昼一時半を過ぎていた。
『今までずっと練習してきたの?』
 体が重い。練習のしすぎではないのか。
『うん。けど、大丈夫。練習終ったから』
 朝と同じ。姿は見えない。背後から声が聞こえるように思える。
『ヒカリ何食べたい? せっかくだから食べるところまで起きてなよ』
『いいよ、ボクが起きていると真琴は頭痛になるんでしょ?』
 確かに今も頭は痛い。
『ボクの体を鍛えてくれたお礼だよ。ほら、食べたいものを言ってみて』
『オムライス。中居寺のOrigamiに行く途中にあるお店』
 ああ、あそこか、とボクは思った。
 なんとなく、歩いていると出ている看板の『今日のオムライス』の内容をみると、どんなものなのか想像しながら、一度入ってみよう、とずっと思っていた。それはヒカリが食べたかったからなのかもしれない。
『違うよ。それは真琴自身の気持ちだよ』
『オムライスのこと?』
『そう。ボクは体が欲しがるものはわからない。わかるかもしれないけど、大抵の場合は真琴を通じて感じている』