「それじゃ、食事終わるまでにどっちか決めといてね」
 薫はそう言って居間へ行ってしまった。
 真琴は泣き続ける涼子をお腹に抱き寄せた。
 少しくすぐったい感じがしたが、だからといって突き放すことも出来ず、真琴は目をつぶって我慢していた。
「薫…… 薫……」
 涼子が言った。
 薫ではない。ボクは薫の姿をした真琴だ、と思った。
「どうしたの涼子」
「ボクは真琴だよ、涼子じゃない」
 真琴は頭がおかしくなりそうだった。
「ボクが真琴だよ。涼子、本当にどうしちゃったの?」
「薫のフリしてよ。お願いだから」
「ボクにはできないよ、それをしたら本当に自分が誰だか分からくなっちゃう」
「薫の声で、ボクっ言わないで」
 薫の姿の真琴は、本当に混乱の中にあった。
 そして頭を抱えていた。
「薫…… 返事して」
「やめて……」
 お腹のあたりにあった涼子の頭の感触が急になくなった。
 目を開けると涼子は目の前に立っていた。
 そして真琴の制服のボタンを外していた。
 気がつくと、真琴の足元にスカートが落ちた。
「何やっているの!」
「下着同士で写真取ってもらおうよ」
「いやだよ、涼子が制服着てよ」
 その時、真琴は自分の下半身を見て、思わず声がでた。
「薫…… って、こんな下着つけてるの?」
「さぁ…… 真琴は、こんなカワイイやつなの?」
「や! やめてよ!」
「自分だって薫の下着ジロジロ見てるくせに」
 真琴は顔が熱くなるのを感じた。
「涼子が脱がしたからでしょ」
 真琴はうつむいて、そして泣き出した。
「もういやよ……」
 玄関に響き渡るような声を出して、泣き続けていた。
 しばらくすると、涼子がいなくなっていることに気がついた。
「!」
 真琴は、バトンをここに持ってきていないことに気がついた。居間に置き忘れているだけだろう、と考えたが、同時に嫌な予感がした。
「涼子!」
 真琴は急いで居間に戻った。
 居間では薫が食事をしていて、その後ろに涼子が立っていた。
 真琴が座っていたあたりにあるはずのバトンが見当たらない。
「涼子、まさか……」
「なんのこと?」
「バトンよ、さっきからそれを狙ってたのね!」
 真琴は、涼子の元に駆け寄った。
 いつもとは違って下から煽るように見ている。
 そうか、薫はいつもボクのことをこんな角度でみているのか、と真琴は思った。
「睨んだって知らないよ、別にとってないし」
「じゃあ誰が取ったのよ」
「ソファーのしたにでも転がってるんじゃないの?」
 真琴の姿の涼子はソファーの下を覗き込むような仕草をした。
「しらじらしい。やめてよ」
 真琴はつい手が出てしまった。
 押された涼子は床に倒れてしまった。